日経弁護士ランキング首位、太田洋弁護士「今年は上場企業経営者が“極度の緊張”を強いられる年に」【新春インタビュー#12後編】
国内機関投資家の議決権行使基準“至上主義”
繰り返しになりますが、政策保有株がゼロになり、株主が常に入れ替わるような状態では、株主の大部分が短期保有の株主になってしまうわけで、発行体企業は、そうした短期保有株主の要求に屈するしかありません。
そういう意味でも、経営に安定性をもたらす株主の存在も一定程度はいないと、多くの上場企業はMBO(経営陣買収)をして市場から退出してしまうことになりかねない。上場企業が資本市場から退出し非公開になると、逆にコーポレートガバナンスが効かなくなる可能性が出てきます。何事も“中庸”であることが大事ではないかと思います。
それでは、機関投資家がすべからく正しいかというと、そうでもありません。機関投資家も含めた株主サイドの議決権行使のあり方にも問題があります。特に国内機関投資家の議決権行使のあり方は極めて問題が大きいと言わざるを得ない。
端的に言いますと、“議決権行使基準至上主義”になっているのです。もっと発行体企業の個別的な実情を踏まえたケースバイケースの判断をすべきなのに、必ずしもそうなってはいないというケースが往々にして見受けられます。
よく上場企業の人からは「国内機関投資家とは“対話”にならない」という話を聞きます。国内機関投資家と話しても、「議決権行使基準」だけを示されて、形式的な数値基準を満たしてないから反対と通告され、何の対話にもならないというわけです。
典型的だったのが、キヤノンの2023年3月株主総会です。ご存知の通り、当時、キヤノンの取締役に女性がいないことを理由に、代表取締役である御手洗冨士夫会長兼社長CEO(最高経営責任者)の選任議案の賛成率が50.59%まで急落しました。ところが、女性取締役を入れた翌24年の賛成率は90.86%に跳ね上がったのです。
キヤノンが株主の主張を容れて女性取締役を入れるのはいいのですが、振り幅があまりに大き過ぎるし、本当に企業価値の向上を考えた議決権行使なのか疑問です。多くの国内機関投資家が、形式的な行使基準に縛られてしまっていて、ケースバイケースでの判断を怠っていることの証左だと考えています。
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