サステナビリティ、求められる「経営者と同レベルの見識」
コーポレートガバナンス改革が確実に進んでいます。今は、各企業のガバナンスの形式ではなく、実質の中身が問われる段階になっており、今年は、もう一段と高いところに向けたディスカッションが進む年になるでしょう。
中でも大きなテーマになるのが、環境や人権なども考慮したサステナビリティ(持続可能性)関連の動きだと考えています。米国でトランプ政権が誕生することによる影響はあるでしょうが、依然として世界的な課題であることに違いはありません。これからより具体的な開示の方法や行動基準が決まっていく。さらに、その内容を保証する制度の議論も進む。
サステナビリティは多岐にわたります。地球や自然環境などを守るほか、そもそも自社もサステナブルである必要があります。
さらに言うと、サステナビリティには、“攻め”と“守り”の両面があると思います。例えば、温室効果ガスをどのようにどれだけ減らすかという守りの部分と、それを機会としてとらえ、ビジネスの面で貢献としてくという攻めの部分です。
開示も重要です。数字で示すデータ的なものは正確さが命です。一方、文章で表現する定性的なものについては、オーバーステートメント(誇張)とかミスステートメント(誤謬)などの懸念もあります。
当たり前ですが、これらのサステナビリティに関しては、まずは経営陣の取り組みが問われます。一方、監査役等としては、この取り組みが適切か、そして適切に開示しているか、というところを見ることがその役割となるのです。
このため、監査役等は、経営陣と同じ程度にサステナビリティの流れをしっかりと理解していく必要があります。
とはいえ、これは本当に大変なことです。監査役協会としても、監査役等をしっかりとサポートしていく必要があるし、そうした動きの“元年”となるのが2025年であると感じています。
「公認不正検査士」の知見は監査役等にとっても有効

ところで、昨年4月、私は日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)の評議員に就きました。公認不正検査士(CFE)というのは米国発祥の民間資格ですが、不正に関する知見や経験といった専門性を認定された人たちです。評議員会の議論を聞いても、大企業でも不正が発生している昨今、社会に貢献できる職能ではないかとの思いを深めました。
実際、弁護士や公認会計士、上場企業で内部監査に関わっている人たちが資格を取っているケースが多い。そして、監査役等という視点で言えば、我々が必要としている知見と重なる部分が相当多いように思います。
昨今、さまざまな企業で不祥事や不正が起き、そのレピュテーションが著しく毀損してしまう事案が発生しています。不正検査士のように不正についての専門的な知見を持っている人が内部統制を構築することにもっと関与していく、という流れが企業の中に出てくるかもしれません。
なかなか収まらない品質・検査不正に対しても、監査役等は努力をしています。監査役等は時に現場を視察し、いろんな役職員たちと話をします。工場や支社に行った際、責任者と会うだけでなく、上席者なしで現場のスタッフの方々から直接話を聞くという監査役等も大勢います。
これは非常に重要なことです。いろんな層の役職員から話を聞かないと、場合によっては、何が隠れているか分からないからです。今後は「監査役等に直接、通報できますよ」「何かあったら声をあげてくださいね」と、心理的安全性の確保を意識してコミュニケーションをとることは、監査役等にとっても、より求められるスタンスと言えるでしょう。
そのような点からも、不正検査士が培ってきたメソッドやナレッジは、監査役等にとっても非常に有意義なものと考えます。
ガバナンスは元より、サステナビリティ、そして不正予防・検出……と、監査役等がその知見を深めておくべきことが加速度的に増えており、その流れは今後、強まりこそすれ、弱まることはないでしょう。
それは監査役等の権限強化はもちろん、責任が重くなることを意味します。日本監査役協会はそうしたみなさんを今まで以上にサポートし、経営者(執行部)・市場関係者(投資家等)による監査役等の役割に関する認識の向上に継続的に取り組みます。
(取材・構成=編集部)