祝WS制覇! 大谷翔平の元通訳「水原一平」は安全ではない!? 米刑務所という“暴力世界”【海外法務リスク#5】

囚人176人vs.刑務官1人「民営矯正施設」の実態

とはいえ、性暴力は依然、「撲滅」からは程遠い状況だ。PREA成立20周年に当たる昨年9月、ジャスト・ディテンション・インターナショナルのリンダ・マクファーレン事務局長は、「拘禁中の性虐待は20年前と変わらず、今日においても最悪の犯罪だ」とコメントした。

矯正施設で性虐待をはじめとする暴力が横行している要因のひとつに、被収容者の人数に比べて刑務官の数が少な過ぎることが挙げられる。

民営矯正施設に2014年に刑務官として潜入して実態を暴いたジャーナリストのシェーン・バウアーは、採用後の研修で、受刑者同士がナイフで刺し合っている場合どうすべきか、教官から身振りを交えて教わった内容を、著書アメリカン・プリズン 潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス(東京創元社)で紹介している。

ミスター・タッカーが両手を口にあて、「喧嘩をやめろ」と見えない受刑者に言った。「やめろと言ってるだろう」淡白な声だった。「どうしてもやめない気か?」そして、あとずさりで部屋を出て扉を閉めるふりをした。「そこに入ってろ!」ミスター・タッカーがこちらを向いた。「どちらかが勝つ。どちらかが負ける。ひょっとするとどちらも負けるかもしれない。だが諸君は職務を果たしただろうか。もちろんだ」生徒がいっせいに笑った。そうしたければ止めに入ってもいいが、すすめはしない、と彼は言った。(『アメリカン・プリズン』より)

バウアーが潜入したのは南部ルイジアナ州の大規模な民営矯正施設で、当時、時給は小売り大手ウォルマート並みの9ドル。慢性的に人出不足で、受刑者と刑務官の比率はなんと176対1だった。これでは刑務官のモチベーションは上がらず、目が行き届かないのも当然だ。職員にとっても“ブラック”な職場だったのだ。

教官のタッカーは、「我々にとって大事なのは、仕事が終わって家に帰ることだけだ。それ以外ない」(同書)と、新人たちに“鉄則”を教え込んだのだった。絶えない暴力沙汰や、性的なものを含む受刑者からの嫌がらせに耐え切れなくなったバウアーは結局、4カ月で退職した。

バウアーはしかし、その後も追加取材を続け、潜入ルポを発表。それが大反響を呼び、今では公営矯正施設に比べて運営が杜撰とされる民営施設に、厳しい目が向けられるようになっている。