フジテック#6 創業家支配と「株主ガバナンス」の相克【株主総会2023】

株主に響かなかった創業家「経済安全保障」の咆哮

しかし、そんな内山の心情を否定などできないだろう。

内山は、エレベーター独立専業メーカーの地位を築いた創業者の父親からフジテックを引き継いだ。一族の75年に及ぶ血と汗の結晶である会社の経営権を失うことは、彼にとっては、断じて許されない悲劇である。すなわち、内山一族にとってフジテックは、決して株主のものではない。内山家支配と不可分の“創業家のための会社”だったのだ。

この意識は、内山に逆襲を決断させ、自身が行った株主提案に色濃く表れていくのだった。事実、オアシスの情報戦に敗れフジテックを追放された内山は、反転攻勢の株主提案で徹底してオアシスの主張に反論した。

オアシスとそのCIO(最高投資責任者)のセス・フィッシャーらへの名誉棄損訴訟に加え、株価を吊り上げて短期間でエグジットするオアシスのアクティビスト活動への批判は、さらに日本の経済安全保障の問題にまで引き上げられた。

内山側のプレゼン資料によれば、〈海外20万台、国内8万台〉を設置するというフジテックのエレベーターは、〈空港に300台、警察に150台、防衛省・自衛隊に100台など中央官庁合わせて1000台〉が稼働しているという。監視カメラで遠隔操作が可能な同社のエレベーターは、海外のインテリジェンス活動に利用されたり、有事の際に強制停止される恐れがあるとして、オアシスのフジテック売却によって経営権を海外資本に握られた場合、安全保障上のリスクが指摘された。

こうした主張に深刻に耳を傾けたのが、「国策研究会」だった。公益財団法人の同会は、昭和8(1933)年に貴族院議員の大蔵公望、東京帝国大学の小野塚喜平次総長らの官民有志が集って発足した「国策研究同志会」が前身で、2.26事件(1936年)を機に軍部、官界の後ろ盾を得て拡大、現在の国策研究会を名乗った保守系団体だ。

公益財団法人「国策研究会」のホームページ

内山の弁護士に就いた河合弘之は今年2023年5月に、同会で「アクティビスト(禿鷹ファンド)による日本産業の空洞化」と題して講演しオアシスを批判した。河合に同伴した内山は、フジテックと創業家の関連当事者取引に関して「でっち上げ」「証拠は何もない」と語気を強めた。国策研究会の会員には、オアシスによる創業家の疑惑追及は、海外資本が日本の製造業乗っ取りのために行った悪質なプロパガンダという認識が広がった。

しかし、いくらオアシスの情報戦に反論し、内山が真実を示したとしても、またオアシスを名誉棄損で訴えたうえで国益毀損の危険性を強調しても、フジテックの株主の心を打つことはなかった。

文中敬称略・以下#7に続く

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