中国では、コーポレートガバナンス上の重要論点として「関連当事者取引」(関連取引)が頻繁に問題となっており、不正防止や利益相反管理の観点から注目を集めています。中国会社法では、「関連取引」の主体には一定の範囲があることが明らかで、会社の支配株主、実質的支配者、取締役、監査役、上級管理職がその対象とされています。しかし、市場の状況や組織の管理構造は日々進化しており、多くの不正事案を分析する中、「関連取引」が次第に下位職層へと広がる傾向があることが判明しています。
異なる階層の従業員が、関連関係を利用して会社の利益を損なう行為を行った場合、その責任追及の法的根拠にはどのような違いがあるのでしょうか?また、司法実務ではどのように認定されているのでしょうか? 本稿では、4件の典型的な判例をもとに解説し、企業の日常的な内部統制に対する提言を行います。
1. 上級管理職による関連取引の責任
ケース① 支社責任者が企業利益を害した場合の責任(広東省広州市中級人民法院、2020年)
Xは2015年よりA社広州支社の責任者に就任し、日常の経営や価格設定について一定の裁量を有していました。Xは職務上の便宜を利用し、顧客をA社ではなくB社に紹介し、その後B社がA社に発注するという仕組みを構築。B社はXの弟が代表、Xの配偶者が監査役を務める企業であり、実質的な関連会社でした。B社は約1732万元(約3億460万円)の発注を行いましたが、A社が受領した金額は約1281万元(約2億560万円)で、その差額はB社利益となりました。
裁判所の見解
Xは「中国会社法」第216条第1項及び第4項に基づき、上級管理職であり、B社との間に関連関係があると認定。忠実義務に反する行為として責任を負うべきとされました。一審では価格の設定権限がXにあったため、割引分が必ずしも損失とは認定されず、実際の収賄額等を参考にして55万1000元(約1100万円)の賠償と判断されました。
判決
XはA社に対し55万1000元を支払うよう命じられました。
審理ポイント
Xの部下4人も訴えられましたが、彼らは上級管理職に該当しないため、当該訴訟では責任主体とは認められませんでした。これは、上級管理職と一般社員とで法的責任の判断基準が異なることを示しています。
ケース② 地方企業の再審事件(最高人民法院、2019年)
会社の定款では副総経理(副社長)は董事会が任命するとされていますが、当時Yは実質的にその副総経理の役割を担い、販売と購買を統括していました。Yは配偶者および親族が設立したC社との間で、会社に無断で取引を行い、売掛金の回収も怠っていました。
裁判所の見解
Yは実質的に上級管理職としての職務を行っていたと認定され、不適切な関連取引によって約435万元(約8600万円)の損失を会社にもたらしたとされました。
判決
Xは会社に対し435万2320元(約8600万円強)の賠償を命じられました。
審理ポイント(上級管理職の場合)
- 主体の身分認定
実質的に管理権限を有しているか否かが判断基準となります。組織変更に応じて定款の更新が必要です。 - 関連関係の有無
広義の「関連関係」は直系親族や間接的な支配関係も含まれます。 - 取引の正当性
業務手続きに則っているか、利益相反の開示があったかが審査されます。 - 損失の認定
実損か否か、利益相反取引による潜在的な損失まで含めるかどうかが重要な争点です。