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【ブラジル弁護士特別寄稿】ブラジルでの"コンプライアンス投資"に価値はあるのか?――日系企業にとっての戦略的優位性

1. 公共調達および政府機関との契約における優位性

ブラジルの「公共調達および行政契約法」には、インテグリティに関する重要な制度的改正が取り入れられています。なかでも特筆すべきは、公的機関との契約において、コンプライアンス・プログラムの有無が競争上の優位性となり得る旨を明示した規定です。

実際、高額な調達案件における入札では、公共機関が受注候補者に対してコンプライアンス・プログラムの導入を求めることが認められています。また、既に導入している企業は、同額の入札があった場合において、選定時の優先対象として扱われる可能性があります。

とりわけ、インフラ、テクノロジー、ヘルスケア、重要物資の供給といった分野で、ブラジルの公共セクターへの参入を検討している日系企業にとっては、これは実質的な競争優位となり得ます。コンプライアンス(インテグリティ)・プログラムの有無が、入札を勝ち取れるか否かを左右する決定的な要素となる可能性もあるのです。

2. 反汚職法に基づくリーニエンシー合意による制裁金の軽減

汚職に関与した企業は、ブラジル当局との間でリーニエンシー(寛大処分)合意を締結することができます。こうした合意により、当該企業は、捜査に対する実効的な協力を行い、かつ、プログラムの導入または強化を約束する限り、事業を継続することが可能となります。

こうした合意によって得られる主な利点のひとつが、制裁金の軽減です。ブラジル連邦政府監査庁(Controladoria-Geral da União、以下「CGU」)は、複数の事例において、効果的なコンプライアンス・プログラムの存在が、最大で前年度総収益の4%を上限とする軽減率の適用を正当化する要素となり得ることを認めています。

言い換えれば、最悪の事態に直面した場合であっても、コンプライアンス・プログラムを導入していれば、多額のコスト削減が可能となり、当局との協議が円滑に進み、自社の評判を守るうえでも有効なのです。

3. CGUの「プロ・エチカ(Pró-Ética)プログラム」における認証と評価

CGUと民間セクターとの協働により設立された「プロ・エチカプログラム」も重要です。このプログラムは、インテグリティ、透明性、腐敗防止措置を自主的に導入する企業を評価・認定するものです。この認証は、ベストプラクティスを実践する企業の証として、ブラジル政府により毎年更新・発行される公式認証マークです。

認証を希望する企業は、自社のコンプライアンス・プログラムに関する詳細な情報を提出する必要があり、当該内容は専門的な評価基準に基づいて審査されます。認定された企業は広く公表され、インテグリティ重視の傾向が高まる市場において、レピュテーション面で重要な優位性を得ることができます。

「プロ・エチカプログラム」に参加することで、とりわけ高リスク分野では、ビジネスパートナー、顧客、監督当局との交渉において、インテグリティに対する積極的な姿勢を示す有効な指標となり得ます。

ブラジル市場における日系多国籍企業の競争戦略としてのコンプライアンス

コンプライアンスは、明確な競争優位性として確立されつつあります。とりわけ、公共セクターとの関係を有する、あるいは機微な産業分野で事業を展開する日系企業にとっては、インテグリティへの投資は、慎重な対応にとどまらず、近年ますます賢明な経営判断とされています。

堅牢なコンプライアンス・プログラムの導入は、法的リスクおよび評判リスクを最小限に抑えるのみならず、新たなビジネス機会の創出やコスト削減につながるほか、ブラジル国内外における自社の組織的信頼性を強化する効果もあります。

このように、ブラジルのような複雑な市場において、インテグリティは単なる「倫理的に求められている選択肢」ではなく、「戦略的判断」として位置づけられているのです。

(了)