レオポルド・パゴット(Leopold Pagotto):弁護士(ブラジル在住)
アナ・エリザ・ベルトリン・ダ・シウバ(Ana Elisa Bertolin da Silva):弁護士(ブラジル在住)
企業のコンプライアンス体制が競争力を左右する――そうした考え方は、グローバル市場では広く浸透しつつありますが、ブラジルでは依然としてその導入が義務ではない分野も多く存在します。では、制度的強制力が及ばないこの市場で、あえてコンプライアンスに”投資する”意義はどこにあるのでしょうか。
本稿では、現地の法制度に精通したブラジルの弁護士が、企業が自主的にコンプライアンス・プログラムを構築することの実務上の利点について解説します。公共調達、リーニエンシー制度、認証制度の3点を軸に、日系企業にとっての戦略的価値を読み解きます。
ブラジルでは、企業によるコンプライアンス導入は、依然として多くの分野で「任意」にとどまっています。他国では、すべての企業にコンプライアンス(インテグリティ)・プログラムの導入が義務付けられている場合もありますが、ブラジル法においては、導入義務は一部の規制対象分野に限定されています。この規制対象分野とは、金融システム、保険会社、中央銀行の認可を受けた機関、または国家安全保障や公衆衛生に関連する分野で事業を行う企業になります。
これらの規制分野に該当しない企業、すなわち日系企業を含む外国企業グループの子会社や支店においては、コンプライアンス・プログラムの導入は引き続き任意とされています。こうした状況下では、次のような問いが出てきても当然でしょう――現地の競合他社がコンプライアンスを優先課題と見なしていない場合でも、ブラジルにおいてコンプライアンス・プログラムへ投資する価値はあるのか、という点です。
この点については、近年その価値は、より明確になりつつあります。というのも、ブラジルの法制度は、体系的なコンプライアンスおよびガバナンス体制を構築する企業に対して、具体的かつ経済的なインセンティブを付与する方向へと発展しているためです。
こうしたコンプライアンスへの投資が、単に正当化されるだけでなく、企業戦略として有効であることを示す三つの主要な観点について、以下、ご紹介します。