台湾労働基準法に基づく解雇事由の整理
台湾の労働基準法によれば、以下の第11条および第12条に定められている事由のいずれかに該当しない限り、企業は一方的に雇用契約を終了することはできません。
【労働基準法第11条】
次の各号の一に該当する場合でなければ、雇主は労働者に予告したとしても労働契約を解約してはならない。
- 廃棄または譲渡の場合
- 損失または業務縮小の場合
- 不可抗力により仕事を1か月以上停止する場合
- 業務の性質が変わり、労働者を減らす必要があり、また配置転換できる適当な仕事がない場合
- 労働者がその担当している仕事に確かに堪えない場合
【労働基準法第12条】
①労働者に次の各号の一がある場合、雇主は予告をしないで契約を解約することができる。
- 労働契約を締結する際に虚偽の意思表示をし、雇主を誤信させて損害を与えるおそれがある場合
- 雇主、雇主の家族、雇主の代理人またはその他共に働いている労働者に対して、暴行を加えた、または重大な侮辱行為をした場合
- 懲役以上の刑の宣告を受けて確定し、刑の執行猶予を言い渡されず、または罰金で替えることが認められなかった場合
- 労働契約または就業規則に違反し、その情状が重大な場合
- 機器、工具、原料、製品もしくはその他雇主所有の物を故意に損耗し、または雇主の技術上、営業上の秘密を故意に漏洩し、それによって雇主が損害を被った場合
- 正当な理由なくして継続して3日無断欠勤し、または1ヶ月以内での無断欠勤が6日に達した場合
②雇主が、前項第1号、第2号および第4号から第6号までの規定によって契約を解約するときは、その事情を知った日から30日以内にしなければならない。
「不適任従業員」の判断における注意点
上記の条文内容を整理してみますと、おおむね3つのタイプに分けられます。
- 会社の経営がうまく行かなかったり、事業再編等が行われた場合(労働基準法第12条1項1号~4号)
- 従業員が不適任である場合(労働基準法第12条1項5号)
- 従業員が不法行為や不適切な行為などを犯した場合(労働基準法第11条)
1と3については、やや特殊な状況であるため、通常では該当する場面が少ないです。よく議論されるのは、パフォーマンスがあまりよくない従業員がいる場合、労働基準法第12条1項5号の「従業員が不適任である場合」という事由に該当するものとして、会社が従業員を解雇できるか、という点になります。これについて、もし紛争などで訴訟になった場合、①会社は客観的かつ合理的な評価プロセスで評価をしたかどうか、②会社は従業員が不適任であると判断したとしても、解雇は最終的な手段として、解雇ではなく、配転や解雇以外の人事処分の方が適切ではないか等が裁判所に厳しく審査されることになります。よって、極端なケースでない限り、単に従業員のパフォーマンスがよくないことで、この労働基準法第12条1項5号の「従業員が不適任である場合」を適用して、従業員を解雇することにはそれなりの法的リスクが生じます。
合意退職の推奨とその実務対応
特殊な状況がない限り、会社が一方的に特定の従業員を解雇するには法的リスクが存在することは上記の通り説明しましたが、法的リスクを避けるためには、従業員と協議したうえで、合意退職の形における退職が実務上よく運用されている方法です。また、もし会社に優遇退職制度があれば、それを利用することをベテランの従業員に推奨することもひとつの方法です。もし会社にそのような制度がない場合、個別に協議しなければなりませんが、協議する際に、提供できる金銭的なインセンティブが高ければ高いほど、合意に至る可能性も高くなります。
(後編に続く)