【フランス弁護士特別寄稿】フランスにおける雇用契約終了プロセス「7つの重大リスク」 ~手続き無効化を招く典型的な誤りと実務対応の要点~《Part 1》

パトリック・ティエバール(Patrick Thiébart):弁護士(フランス在住)
ヒンド・ジャラール(Hind Jalal):弁護士(フランス在住)

フランスでの雇用契約終了プロセスは複雑で、法律や手続き、金銭的な面での慎重な対応が求められます。現地弁護士による本レポートでは、雇用主が陥りやすい誤りに焦点を当て、法令を順守し、かつ倫理的に責任ある解雇となるよう、実務的なポイントと対策を3回に分けて紹介します。今回は第1回目として、第1の重大リスクについてお伝えします。

第1の重大リスク:不適切な終了手続の選択

契約終了の選択を誤れば、訴訟・無効・高額損害賠償のリスクに直結

雇用契約終了の法的根拠を誤って選ぶと、高額の訴訟リスクに加え、「不当解雇」として裁判などで判断され、賠償責任を負うおそれがあります。雇用主は、フランスにおける以下の3つの主要な終了形態:
①個人的理由による解雇
②経済的理由による解雇
➂合意による終了

から慎重に選択する必要があります。

①個人的理由による解雇

懲戒処分による解雇

従業員による不正行為(例:窃盗、ハラスメント、安全規則違反)に対して行います。

重要ポイント「比例原則」

処分の重さは違反行為の重大さに見合ったものでなければなりません。処分は“口頭注意”から“重大または極めて重大な違反による即時解雇”まで、さまざまな段階があります。

「不正行為」は以下のように分類されます:

  • 単純な不正行為
    通知・退職手当を伴う解雇の正当理由となります。
  • 重大な不正行為
    通知・退職手当なしでの即時解雇の正当理由となります。(例:窃盗、ハラスメントなど)
  • 極めて重大な不正行為
    通知・退職手当なしでの即時解雇の正当理由となるに加えて、雇用主が損害賠償請求を行うことも可能。(例:雇用主の製品・サービスに対する誹謗中傷など、意図的に雇用に損害を与える行為)

職務遂行に関する理由

従業員が職務上の期待に応えられない、または能力が不十分である場合、解雇の正当理由となります。主な制裁措置は以下の通りです:

  • 労働雇用省労働監督局による行政罰金の課徴。
  • 労働検察庁(MPT)による民事訴訟:集団的道徳的損害*の賠償や、有害な労働慣行の停止に関する合意に至ることもあります。(*注:「集団的道徳的損害」の概念は、ブラジルを含むラテンアメリカ諸国で広く認められ、労働法や消費者保護法の枠組みで適用)
  • より深刻な場合、特に奴隷制に類似した状況においては、刑事責任も問われます。