野村 彩:弁護士(和田倉門法律事務所)、公認不正検査士(CFE)
売上高の最大9割が過大計上によるものだったAI(人工知能)開発のオルツ事件。同社は東証グロース市場上場からわずか10カ月で上場廃止が決定すると同時に、民事再生法の適用を申請することとなった(上場廃止は2025年8月末)。企業法務の現場でも、本件については、毎日のように話題となっているのを耳にする。
そのような中で先日、あの事件の陰にパワハラが隠れていたのではないかという衝撃的な記事が発表された*1。当該記事においては僭越ながら当職もパワハラと不正の関係についての一般的な見解をコメントさせていただいており、今回は連載の番外編として、ハラスメントがいかにして企業を腐食させていくのかについて深掘りすることとしたい*2。
*1 朝日新聞《オルツ元副社長「パワハラ的言動、相談受け対応」弟と4年半対話なし》(2025年9月18日配信)
https://www.asahi.com/articles/AST9C0C61T9CULFA007M.html
*2 というわけで、前回の末尾で「次回は法曹の秘技をご紹介!」と煽っておきながら大変に恐縮ではあるのだが、事実認定の方法論については次回以降にて再開させいただければと思う。
「第三者委員会」普及で見えてきた“不正の方程式”
いまや、企業で不祥事が起きた際に調査委員会や第三者委員会を設置して事案を解明するという手法がスタンダードになりつつある。委員会が調査した結果は、報告書として一部公開されることが多く、これまでは報道ベースでしか知り得なかった不正企業の内幕を、誰もが簡単に知ることができるようになった。委員会調査の歴史自体はまだ浅いが、それでも、事案が積み重なることにより、少しずつ不正の起きる企業の共通点が見えてきた。
一般的に、調査報告書は「事実関係」「不正の背景の分析」「再発防止策の提言」という構成で作成される。認定された事実関係をもとに、委員会が不正の背景を分析し、その分析をもとに再発防止策を提言する。調査を受けた企業は、この「再発防止策の提言」の内容を粛々と実行して、株主をはじめとするステークホルダー、そして社会の信頼を回復することを目指す。
そして、この「不正の背景」として、昨今実に多く挙げられるのが「パワーハラスメントの存在」である。あるいは、委員会がパワハラの決定的証拠までは得られなかったような場合でも、「パワハラ“体質”」「圧迫的な言動」などの表現がなされている。
不祥事の中でも不適切会計・不正会計において特に散見されるのが、このパワハラと「業績に対するプレッシャー」のセットである。無理な目標とパワハラがセットになると最悪――。これはもはや“あるある”を通り越して“方程式”になったと言ってもいいのではないだろうか。