とにかく「秘密厳守」
最後に、最も重要な点を述べる。
前回のヒアリング場所を選ぶ際の注意点としても少し述べたが、相談を受けたことは、その内容だけではなく、相談されたこと自体も含めて、厳に秘密としなければならない。行為者による報復行為を防ぐためというのもあるが、そもそもハラスメントの事実は当事者にとって究極のセンシティブ情報である。
相談を受けた者が理由なく他の部署のメンバーに話したりなどしたら、“懲戒処分モノ”である。さらに、漏えいにより相談者に損害が生じた場合、その損害についての賠償義務が生じる可能性すらあるのだ。
したがって、先ほどの「担当部署への橋渡し」に当たっても注意が必要になる。ヒアリング後に担当部署との連携をすることになる可能性が高いとはいえ、まずはプライバシーの保護が最優先であることを忘れてはならない。相談を受けたことやその内容を人事部門と情報共有するに当たっては、相談者の同意を得るのが原則である*2。
*2 ここで、もし相談者が「人事にすら言わないでくれ」と述べた場合、あなたにできることはとても少ない。したがって前述の場面と同様に、相談者に対しても「その気持ちは尊重するけど、本当に話を聞くだけになってしまうよ」と伝えることになる。とはいえ実は、再発防止策の構築は事実関係が確認できなかった場合でも必要になるため、あなたがそれなりの権限をお持ちの立場である場合、その立場として「“少ない”なりにできる対応」は必要となることがある。再発防止策については別途本連載のどこかの回でお伝えする予定である。
なお、ヒアリングをしていくうちに、もしかしたら「ハラスメントなんて、そんな悪いことをするヤツは許せない」という正義感の高揚により「加害者の名前は公表すべきだ!」と思ってしまうことがあるかもしれない。
しかし、それはなかなかに悪手である。仮に相談者の名前を伏していても、相談内容の一部でも秘密の漏えいは問題があるし、そもそも加害者である行為者にだって人権がある。
確かに、懲戒処分一般の問題として、著しく悪質な場合に会社として懲戒の内容を公表するということがないわけではない。しかしながら、それであっても弁護士と相談して慎重に、必要最低限の方法で行うのがセオリーである。まして、ハラスメントのような超スーパーセンシティブな案件において関係者の名前を公表するなど、無謀にもほどがある。
以上、相談を受けるのも楽じゃないよ、という話であったが、無事ヒアリングが終わったとして、次に待ち受ける関門は「それで、相談者が述べていることは、実際にあったことなのかな?」という点についての判断である。
正確には「相談者が述べていることを、実際にあったこととして、会社は“扱って“いいのかな?」ということなのであるが、次回はこの事実認定の手法について解説する。
(毎月1回連載、次回8月25日頃配信)