presented by D-QUEST GROUP

部下から「ハラスメント相談」を受けたとき、やっていいいこと・悪いこと ②《事実確認編》【野村彩弁護士の「ハラスメント」対策講座#7】

「誰にされたのかは、言いたくありません」と言われたら…

以上がファーストヒアリングの心構えなのであるが、1点、よくご質問をいただく点について補足する。

5W1Hで事実を確認するぞ! と思って、「で、誰がそんなことしたの?」と聞いたとき、「言いたくありません」と言われることがある。これは、どうすればいいのだろうか。

このように、相談者が、行為者の名前を言わないことは実はよくある。これは当然といえば、当然である。

相談者が「××さんにやられました」と言って、会社が当該の××さんに聞き取りをしたら、××さんとしては「アイツが密告したんだな」とすぐに分かる。そうすると、高い確率で××さんは相談者に報復をするであろう。いじめたり、無視したり、プロジェクトから外したり、評価を下げたりするであろう。

もちろん会社としては、行為者に聞き取りをするときに「報復行動、ダメ、絶対!」と伝えるのだが、それでもやってしまう人はやってしまう。相談者はそんなことは百も承知である。だから、言いたくない。

他方で組織としては、ハラスメントが起きた可能性がある以上、両方から言い分を聞いて、きちんと調査して対応したい。安全配慮義務の観点からも当然である。しかしながら、組織としてどんなに頑張っても加害者の報復行為を事実上100%防止することなどできない以上、相談者の「言いたくない」という感情も尊重されるべきである。なかなかのジレンマである。

結局、一定程度説得はするものの、相談者が言いたくないのであれば、何があったのかだけ聞いて、誰がやったのかは伏せたままにしてもらう、という落とし所になることは多い。

この場合に注意しなければならないのは、会社として、行為者が誰か分からない以上はできることに限りがある、ということである。誰か分からない人を懲戒処分にすることはできないし、人事異動にも限界がある*1

*1 行為者の名前だけは特定してもらうが、行為者のヒアリングをしない、という方針になることもある。この場合も、行為者の言い分を聞かずに懲戒処分をすることはできないので、似たような問題が生じる。

当たり前と言えば当たり前な話なのだが、その点は相談者によく説明しておく必要がある。行為者の名前を出すことのメリットとデメリットを丁寧に話しておかないと、後々で「会社は何もしてくれなかった」と不満が出ることになりかねない。

とはいえ、ここであまりデメリットを強調して「調査すると、あなたが報復を受けるかも」など言い過ぎると、相談者は「ああ、会社は調査をしたくないんだな。だから、こうやって私を脅すんだな」と思ったりする。下手をしたら“調査放棄”の意向とみなされかねない。なかなかに難しいのである。