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部下から「ハラスメント相談」を受けたとき、やっていいいこと・悪いこと ②《事実確認編》【野村彩弁護士の「ハラスメント」対策講座#7】

野村 彩:弁護士(和田倉門法律事務所)、公認不正検査士(CFE)

前回#6では、部下からハラスメント相談を受けたときのNGワードなどをご紹介した。

しかしながら、NGワードを羅列したとて、「じゃあ何をどうすればいいのよー!?」という話であって、それで終わっては消化不良もいいところである。そこで今回は、ファーストヒアリングで何を聞くのかについてご説明したい。

では、何を聞けばいいのか?

それは「事実関係」である。いつ、どこで、誰が、何のために、どんなふうに、何をしたのか。5W1Hで事実関係を確認する。

なぜ事実関係を聞かなければならないのかというと、事実こそが、その後の組織としての対応の根幹となるからである。

一度ハラスメントに関する相談が持ちかけられた場合において、組織が対応するに当たっての最終目的は「職場環境の改善」である。現状のハラスメント状態を是正し、かつ、二度とこのような事態や相談が起きないように対策をしなければならない。

そのためには、行為者の懲戒処分が必要になるかもしれないし、産業医との連携が求められるかもしれない。人事異動の要否についても検討されるだろう。また、「そもそも、なぜこのようなことが起きたのだろうか?」という原因分析も求められる。原因が分からなければ、真の再発防止策など構築できないからである。

これらの対応の根源となるものが、「実際に、何が起きたのか?」という事実関係である。したがって、組織としては、まずここを固めておかなければならない。

どんなふうに事実関係を聞くか?

では実際に、どうやって事実関係を聞き出すのか。

「どうしたの?」「何があったの?」……このように、至ってソフトに、フツーに聞き始めればいい。

相談者が話し始めたら、「うんうん、なるほど、それで?」「そのあとどうなったの?」と淡々と聞く。

ここに「評価」はいらない。

前回、「それは、間違いなくハラスメントだ」という言葉はNGワードであると述べた。「これはパワハラだ」「そんなの、パワハラじゃない」「懲戒処分に値する」「そんなひどいことをするヤツはクビにすべきだ」……これらのセリフは評価である。評価は不要である。必要なのは、あくまでも「事実」なのである。

日時や場所が分からなかったら補足して聞く。その場に誰かいたのか、いなかったのかを聞く。行為に至った経緯を聞く。何かの記録に残っているのかを聞く。

価値判断はせず、ひたすら「事実」のみを聞いていくのである。

あなたは“評価者”としてそこにいるのではない

本連載をお読みの方は、経営幹部であったり管理職であったりと、普段、人を評価する立場にいらっしゃる方が多いと推察する。

しかしながら、上記のとおり、ハラスメント相談のファーストヒアリングでは評価者としての役割を少し薄くしたほうがいい。もちろん、調査が進んだ後は、しかるべき立場の人間として評価を行うことになるのだろうが、少なくとも初回の聞き取りの場面ではやや異なる。

では、あなたはどんな役割を纏うべきなのかというと、それは「担当部署への橋渡しとなること」である。

このあと、「ハラスメントがあった」となった場合、人事部門と調整して当事者の人事異動を検討することになるかもしれないし、懲戒処分の話になるかもしれない。法務部と相談した結果、会社から被害者に慰謝料を払うことになるかもしれない。ハラスメントが最終的に確認できなかったときでも再発防止策は必要となるため、ハラスメント研修の実施や規程の改定など部門横断的な連携が必要になるだろう。

このように、後処理においては専門的知見を持った部門が対応することが多いが、そういった部門や担当者に「相談者は、これこれこういうことがあったって言ってますよ」と伝えることが重要な使命なのである。