「ヒアリングで言ってはいけない!」5つのNGワード
では、いよいよヒアリング、という段になったら、気をつけなければならない表現がある。
①「男女の問題じゃない?」
これは、セクハラ事案で”あるある”なNGワードである。男性社員と女性社員が性的な言動のことで揉めているらしい、というときに、「ええー、2人で話し合って解決してくれればいいのに……」と思ってしまう気持ちは、分からなくはない。
確かに、不倫はセクハラではない。不倫の話であれば、「男女の問題」といえるかもしれない。しかしながら、相談者が相談をしてきている以上、同意があったような事案ではない、という前提で対応をしなければならない。同意がないのであれば、ハラスメント事案である。
そして、ハラスメント事案については、厚労省の定めるセクハラ防止指針が、「事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること」を求めている。ハラスメントの疑いがあったのに、「男女の問題」と言って差し戻してしまうのは、この事実関係確認義務に違反するおそれがある。
②「お前も男だろ、言い返してこい!」
パワハラ相談、特に男性からの相談に対して言いがちな発言である。ツッコミどころが多すぎる一言だが、まずそもそも「お前も男だろ」は男女差別的な発言であり、これ自体が違法な行為となる可能性がある。
そして、「言い返してこい」というのもよろしくない。何がよろしくないのかと言うと、これも先ほどの事例と同様に、調査を拒否することを意味しかねないからである。相談をしてきている人に対し「自分で解決しろ」は、各種ハラスメント防止法が制定された現代においてはタブーなのである。
③「気にしなくていい、時間薬だよ」
これは「言い返せ!」パターンよりだいぶ優しい感じはするが、言っていることは同じである。「自分でなんとかしろ」「自分の気持ちをコントロールすることで対応しろ」という意味でしかない。つまり、「会社は何もしません」と宣言しているようなものだ。「時間が解決するよ」と寄り添って見せて、実は突き放していることにほかならないのである。
④「許せんな……そんな奴は俺がクビにしてやる」
かっこいい! とてもかっこいい頼りになる上司なのだが、もし、クビにできなかったらどうする気だろうか。わが国で、社員をクビにするのはとてもとても難しい。ハラスメントが認定できても難しいし、ハラスメント事案においてはそもそも証拠がないことも多い。
証拠がなければクビどころか、あらゆる懲戒処分ができない。ファーストヒアリングの段階で、懲戒処分の可否まで確実に予想することには無理がある。後日、相談者から「クビにするって言ったのに!」とクレームが来るような事態は避けたほうがいい。
⑤「それは、間違いなくハラスメントだ」
クビを約束しないまでも、最初の聞き取りの段階でハラスメント認定をしてしまうのはまずい。この段階では、今後、会社として、目の前にいる相談者と対立することになるのか、それともハラスメント行為者とされる「容疑者」と対立することになるのかは不明な状況なのである。
例えば、話を聞いて実際に調査をしてみたら、どうも相談者のでっち上げだったらしいという結論になったとする。当然、行為者とされた「容疑者」もお咎めなしである。そうすると、相談者としては会社に対し損害賠償請求をして裁判で決着をつけようとするかもしれない。この場合、会社としては「ハラスメントはなかった」ことを主張することになる。
これとは逆に、調査をしてみたら、やはり相談者が言う通りの問題行動があったようだということになり、行為者に対し懲戒処分をしたとする。そうすると、行為者はハラスメント行為を否認して懲戒処分を争うかもしれない。この場合、会社は「ハラスメントはあった」と主張することになる。
つまり、最初のヒアリングの段階では、このあと会社として「ハラスメントはあった」と主張することになるのか、「ハラスメントはなかった」と主張することになるのかは、まったく分からないのである。分からないことを断言することはトラブルの元。だから言わないほうがいい。
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あなたからすれば、「もー、言っちゃダメなことばっかじゃないのー、じゃあ、何をどうすればいいのよー」とお思いのことだろう。ただ、今回はファーストヒアリングの目的は何か、何を聞けばいいのかについてにとどめ、「何をどうすればいいのか」については次回に解説させていただこう。
(毎月1回連載、次回7月25日頃配信)