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パワハラあるある「危険リスト」ますます増加中【野村彩弁護士の「ハラスメント」対策講座#5】

野村 彩:弁護士(和田倉門法律事務所)、公認不正検査士(CFE)

前回#4はパワハラについてのよくある誤解について解説した。今回は、最近よくあるパワハラの“あるある事例”をご紹介したい。

前回も述べたが、パワハラ防止法(労働施策総合推進法)の定めによると、典型的なパワハラとは〈職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること〉である(同法第30条の2第1項)。

指針*1では定義についてさらに細かい補足がされており、さらに、よくあるパワハラの例として、①身体的な攻撃、②精神的な攻撃、③人間関係からの切り離し、④過大な要求、⑤過小な要求、⑥個の侵害という6類型が事例とともに紹介されている。

*1 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf

この6類型に沿った説明は指針に譲るとして、今回は昨今話題となっている事例を含めてランダムにご紹介しよう。

“熱の入った指導”で言ってしまいがちシリーズ

「いつまで新人気分」
「学生気分はさっさと捨てろ」
「学ぶ気持ちはあるのか」
「申し訳ない気持ちがあれば変わっているはず」
「今日使った無駄な時間を返してくれ」
「何、勝手にやってんの?」
「そのくらい考えなさいよ」
「もう少し頭使わないと」
「まさか、何か考えあるよね?」
「あなたも××*2なら、このくらい分かるでしょ?」
「給料泥棒」
「あなたの給料で何人雇えると思いますか」

*2 元になった裁判例(宇都宮地栃木支部平31.3.28労判1212.49)では、《××》には「診断情報管理士」が入るのだが、適宜「マネージャー」「課長」「経理部員」などに置き換えていただいても同じである。

これらはすべて、行為者の言動が違法とされた事例で放たれたセリフを、複数の裁判例から集めたものである。こんなセリフを職場で聞いたことはありません、という方のほうが少ないのではないだろうか(当職の育ってきた世代がそうだっただけで、最近では「無いのが普通」と信じたいが……)。

もちろん、#1でご説明のとおり、「何がパワハラに当たるのか」という判断は、いろいろな要素を総合的に考慮してケースバイケースで決められる。したがって、これらの言葉があったから“一発アウト”とは限らないのだが、少なくともパワハラ要素がある表現であることは間違いない。

また、仕事熱心のあまり、部下に対して業務時間外や休日に頻繁に連絡をしてしまうという行動も危険である。まず、部下がそれを読んで返信などしてしまったら、その時間については「時間外労働」として割増賃金を支払わなければならないだろう。

他方、部下が時間を割いていない場合でも、部下に「ヒィー! なんかいっぱい連絡来てる……」と思わせること自体が圧迫的とされることもある。