裁判官の「あんな大きな事件があったのに……」
そして、この内部統制構築義務は、実は構築だけではなく運用を監視する義務も含まれる。いったんつくって、これでよし! という状態になった体制も、実はそれに“穴”が開いていましたということが判明したのであれば、穴を補修しなければならない。
したがって、他社で不祥事が起きた場合は、当該他社の内部統制に問題があったということになるから、同じようなことは自社でも起きるかもしれないと疑って、対応をしなければならない。
ここで話が冒頭に戻ってくる。「フジテレビで起きたことは、うちでも起きるかもしれない」ということである。
「当社のハラスメント防止体制は、男女雇用機会均等法や労働施策総合推進法その他の法令およびそれぞれの指針が求めるものに足りているか?」
「当社のハラスメントに対する方針を明文化し、全社員に周知しているか?」
「ハラスメントに対して厳正に対処する旨のルールづくりはできているか?」
「相談窓口は設置されているか? 窓口担当者は、プライバシー保護を含む適切な対応をとることができるよう教育されているか? 相談があった時の情報管理について厳密に定められているか? 相談を控えさせるような言動をしている管理職はいないか?」
「疑わしい事象はないか?」
「相談があったにもかかわらず調査をしなかったことはないか?」
「調査を踏まえて被害者に適切に対応したか? 行為者に対し厳正な処罰を課したか?」
「相談があったことを重く捉えて再発防止策を構築したか?」
「改めて、フジテレビの事件を受けて当社において調査すべき対象はないか?」
もし、これらの対応を「やってないかも……」という場合。そのような状況でフジテレビと類似の事件が自社で発生した時、果たして裁判官は取締役を許してくれるだろうか。
「あんな社会的に大きな問題となった事件があったのに、あなた、何をしていたんですか?」
ため息をつく裁判官の姿が目に浮かぶようである。
(毎月1回連載、次回3月21日頃配信)