検索
主なテーマ一覧

社長は“ハラスメントでクビ!”の筆頭候補である【野村彩弁護士の「ハラスメント」対策講座#1】

パワハラ未満でも、証拠がなくても“取締役はクビ”にできる

「なるほど先生、従業員でも出世すると大変ですね。でも私は取締役ですから」という場合。まず、取締役であっても従業員兼務であれば、従業員としての懲戒処分がなされるから、先ほどの結果と同じである。

では、従業員兼務でない取締役なら安心なのか。

残念ながら、それは逆であり、取締役は従業員より法的にかなりリスクが高い。取締役とは、いつクビになってもおかしくない、不安定な立場だからである。なぜか。法律上、取締役は従業員ではなく「ひとりのプロ」とみなされている。「プロなんだから、クビにされても別のところで仕事を探せばすむ話でしょ」というわけだ。

これに対し、従業員がパワハラ行為を行った時に懲戒解雇をするのはなかなか大変である。まず、絶対にパワハラの証拠が必要となる。証拠もないのに懲戒処分、まして“極刑”である懲戒解雇にすることは危険すぎる。

また、懲戒処分の種類としても、裁判所は「懲戒解雇までしなくても、降格とか、そのくらいでもよかったんじゃないですか」「懲戒解雇は無効です」と言いがちである。懲戒解雇をするほどの、相当に悪質なパワハラでなければ、クビにするのは事実上無理。懲戒解雇はとにかく難しいのである。

他方、取締役であれば辞めてもらうのは簡単だ。次の任期に再任しなければよい。それだけである。パワハラが悪質でなくてもいいし、なんならパワハラ未満の不適切行為くらいでも構わない。そして、証拠もいらない……。一人の取締役の任期終了後、次に誰を取締役候補者にするかは会社の自由だからである。さらに、過半数の議決権があれば、任期途中で解任することも可能なのだ*2

*2 この場合、残りの任期の報酬分などについて当該取締役から損害賠償請求をされる可能性はある。その場合に賠償をしたくないのであればパワハラの証拠があったほうが良い。

したがって、例えば子会社の(使用人兼務でない)取締役が不適切な行為をして親会社の不興を買ったような場合、この取締役の命運は風前の灯になる。親会社が臨時株主総会を開いて解任することで取締役の地位を簡単に剥奪できるのだから。

それでは、次に具体的な話をしよう。

野村 彩:弁護士(和田倉門法律事務所)、公認不正検査士(C…
取締役1人のパワハラで「全役員クビ!」の理由 …
1 2 3

ランキング記事

ピックアップ

  1. 日本内部監査協会・土屋一喜代表理事「ガバナンスの“縁の下の力持ち”が脱皮する年に」【新春インタビュー…

    日本でも内部監査は「CEO」の登竜門となるか 海外で内部監査部門は、役職員が昇格するためには避けて通れない“王道”と言えるポジションと言いま…

  2. “大川原化工機事件”代理人・髙田剛弁護士「警察でも“内部不正告発”を止められない時代」【新春インタビ…

    不正の予防・検出がガバナンス評価に直結する時代 一審では捜査に携わった外事一課第5係所属の20名の刑事のうち、5名の証人尋問が行われました。…

  3. 【《週刊》世界のガバナンス・ニュース#9】アップル、アディダス、H&M、GAP、英国マクドナ…

    アップル取締役会「多様性対策撤回」の動きに追随せず 米IT大手アップルの取締役会は株主に向け、2月25日に開かれる株主総会で「多様性・公平性…

  4. 【米国「フロードスター」列伝#5】親友弁護士コンビの「史上最長インサイダー事件」を誘発した“大手ロー…

    将来有望な若き弁護士と“同僚の高級車” ジョセフ・グルモフセクは、カナダ最大の都市トロントが州都のオンタリオ州に生まれ、学問を重んじる家庭に…

  5. 丸木強・ストラテジックキャピタル代表「2025年もアクティビストの“職業倫理”を全うする」【新春イン…

    日本で「親子上場」がなくならない本当の理由 2025年への“期待”ということで言えば、親会社が50%以上の株を持つ子会社が上場している「親子…

  6. 髙田明・ジャパネットたかた創業者「ガバナンスを動かすのは他者への愛情だ」【新春インタビュー#5後編】…

    成長して、分配して、長崎を元気に 10年前に社長を引退して、佐世保、そして長崎という地域全体の振興にも微力ながら関わらせていただきました。 …

あなたにおすすめ

【PR】内部通報サービスDQヘルプライン
【PR】日本公認不正検査士協会 ACFE
【PR】DQ反社チェックサービス