パワハラ未満でも、証拠がなくても“取締役はクビ”にできる
「なるほど先生、従業員でも出世すると大変ですね。でも私は取締役ですから」という場合。まず、取締役であっても従業員兼務であれば、従業員としての懲戒処分がなされるから、先ほどの結果と同じである。
では、従業員兼務でない取締役なら安心なのか。
残念ながら、それは逆であり、取締役は従業員より法的にかなりリスクが高い。取締役とは、いつクビになってもおかしくない、不安定な立場だからである。なぜか。法律上、取締役は従業員ではなく「ひとりのプロ」とみなされている。「プロなんだから、クビにされても別のところで仕事を探せばすむ話でしょ」というわけだ。
これに対し、従業員がパワハラ行為を行った時に懲戒解雇をするのはなかなか大変である。まず、絶対にパワハラの証拠が必要となる。証拠もないのに懲戒処分、まして“極刑”である懲戒解雇にすることは危険すぎる。
また、懲戒処分の種類としても、裁判所は「懲戒解雇までしなくても、降格とか、そのくらいでもよかったんじゃないですか」「懲戒解雇は無効です」と言いがちである。懲戒解雇をするほどの、相当に悪質なパワハラでなければ、クビにするのは事実上無理。懲戒解雇はとにかく難しいのである。
他方、取締役であれば辞めてもらうのは簡単だ。次の任期に再任しなければよい。それだけである。パワハラが悪質でなくてもいいし、なんならパワハラ未満の不適切行為くらいでも構わない。そして、証拠もいらない……。一人の取締役の任期終了後、次に誰を取締役候補者にするかは会社の自由だからである。さらに、過半数の議決権があれば、任期途中で解任することも可能なのだ*2。
*2 この場合、残りの任期の報酬分などについて当該取締役から損害賠償請求をされる可能性はある。その場合に賠償をしたくないのであればパワハラの証拠があったほうが良い。
したがって、例えば子会社の(使用人兼務でない)取締役が不適切な行為をして親会社の不興を買ったような場合、この取締役の命運は風前の灯になる。親会社が臨時株主総会を開いて解任することで取締役の地位を簡単に剥奪できるのだから。
それでは、次に具体的な話をしよう。