【サステナ道場#2】日本における人権デューデリジェンス:問われる「直接対話」の重要性
問われる会計プロフェッショナルの「人間力」
人権DDには、ステークホルダーエンゲージメントの一環として行われる多様なライツホルダーとの対話、途上国の森林伐採や児童・強制労働の現地調査など、われわれ会計プロフェッショナルに馴染みのある財務DDとは、また異なるスキルや精神的・肉体的なタフさが要請される。
実際、デスクワーク中心の定型的なビッグ4(4大監査法人)系のアプローチに対し、より踏み込んだ現場との直接対話を積極的に行うべきとする、”Beyond Social Auditing”(社会的責任監査を超えよ)との声が、国際イニシアティブ団体やNGO(非政府組織)などから上がっているとも聞くところである。
一方で、前回で解説したEU(欧州連合)のCS3D(企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令)においては、グループ親会社によるリスクベースアプローチに基づくDDも許容されている。カバレッジ(網羅率)を考慮したアンケートの実施や集計、対象ごとのリスクの分類、発生可能性や深刻度(重大性)に応じたリスクマップの作成など、財務諸表監査の知見、いわばDNAを持つ洗練されたビッグ4的なアプローチは、法的対応手段としてのDDの機能を重視するならば、一定の優位性を持つであろう。
しかしながら、その場合でも、訴訟などを見据えて、形式的に「どこまで行えば良い」というものではなく、いかに各企業の実態に肉薄するDDを実施できるのかが本質的な課題となる。繰り返しとなるが、その場合のリスクとは、いわゆるビジネスリスクそのものではなく、ライツホルダーの目線から捉えなければならない。
これまでの、優れて専門的な、会計基準と監査という、上場企業の経理部など、判っている者同士のコミュニケーションの枠を超えて、サステナブル、とりわけ人権DDの世界においては、より多様なステークホルダーとの「対話力」や弱者への「共感力」、ひいては広い意味での「人間力」が試されることとなるだろう。
《今回の道場訓》
人権デューデリジェンス(DD)の心は慈愛の心。ライツホルダーの身になって考えるべし。
(了、次回に続く)
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