創業家出身社長が株主提案により辞任
東証スタンダード上場の畜産物を手掛ける商社、太洋物産(東京・新宿区)は、同社の前社長の柏原滋氏が代表取締役を務める不動産会社、太洋不動産(非上場)との裁判で勝訴したことを発表した。太洋物産と太洋不動産は2023年から係争中だった。
太洋物産は昭和11年(1936年)に創業。2010年5月19日に前社長の柏原滋氏の父で同社社長だった柏原弘氏が心不全により79歳で死去。それに伴い、当時44歳だった長男の滋氏が同年5月24日に社長に就任した、いわばファミリー企業。
翌11年には弘氏名義の太洋物産株を長男の滋氏が相続し第2位の株主になっていたが、11年後の22年3月、経営体制が大きく変わる。
滋氏は株主提案を受けて代表取締役社長を退任。翌4月には「一身上の都合」により取締役も辞任したのだ。
創業家に一体何があったのか。5月20日発表の今回の適時開示に記載されている経緯を要約すると、22年3月1日に開催された取締役会で、現社長の松島伸介氏が選任されたことで柏原氏は代表権のない取締役になったのだが、上記のとおり、同年4月末日をもって〈自ら任期の途中に取締役を辞任〉したという。
その後、新体制となった太洋物産が柏原氏が関与した過去の意思決定について調べると、下記のような事実が判明したとしている。
(1)柏原滋氏が代表取締役を務める太洋不動産に対して当社が保有する金銭債権が、実態が無いと考えられる不動産管理契約の支払債務と毎月相殺されていた。
(2)当社と太洋不動産との間において、不明瞭な取引が複数確認された。
(3)021年12月から22年1月において、柏原滋氏から外部に対して当社内部情報の流出があった。また、当該情報受領者による当社株式の売買取引が行われていた。
(4)19年9月30日に当社から太洋不動産に譲渡された固定資産(通称:「横浜ラボ」)について、その使用実態に問題があった。
そこで太洋物産は23年5月9日に柏原滋氏に対して損害賠償を求める訴訟を、同22日には太洋不動産に対しても貸金返還を求める訴訟を東京地裁に起こしていた。
一方、昨年9月27日には「太洋不動産株式会社・代表取締役」として滋氏が太洋物産に1900万円余の損害賠償を求めて反訴していた。その理由は、譲渡された「横浜ラボ」の契約は通謀虚偽表示に基づくものではないといったものだった。
そして今年5月14日、東京地裁の判決が出たというわけだ。冒頭のとおり、太洋物産は勝訴。太洋不動産は太洋物産に対して約1400万円を支払うことや、太洋不動産の反訴を退けるという内容だった。適時開示の時点では、太洋不動産側が控訴するかどうかは未定のようだ。