【2024年10月25・26日「適時開示ピックアップ」】ウイルコHD、ホンダ、八十二銀、極洋、野村不HD、ステムリム
10月25日金曜日の東京株式市場は反落した。日経平均株価は前日から229円値下がりして3万7913円で終わった。27日投開票の衆院選で、政権を担う自民の苦戦が報じられたことが影響したと見られる。そんな25日の適時開示は282件で、この中からコーポレートガバナンスやリスクマネジメントなどで注目されるリリースをピックアップ、周辺情報も交えてお送りする。なお、10月26日も土曜日としては珍しく、1件のリリースがあった。自公政権が過半数割れで、本日10月28日の株価は荒れそうな雲行きだ。
雇用調整金の不正受給「ウイルコHD」が特別注意銘柄に
スタンダード市場に上場し、石川県白山市に本社を置く印刷会社、ウイルコホールディングス(HD)は、東京証券取引所から「特別注意銘柄」に指定され、上場契約違約金の徴求も受けたと発表した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う雇用調整金助成金の不正受給が理由だ。
同社が2024年4月設置した第三者委員会(委員長=長澤裕子弁護士=坂井法律事務所)の報告書によると、24年2月に石川労働局が同社グループに調査に入ったところ、20年4月~23年1月、出勤簿と入退館記録などとの間にズレがあった。結果的にウイルコは不正受給を認め、8億6000万円を自主返還し、有価証券報告書も訂正した。経営陣が、休業申請した日でも社員に在宅勤務することなどを指示するなどして仕事をさせていたという。
第三者委は、社員が不正と知りながら「休業」申請していたことも指摘し、〈経営陣は、彼らの気持ちを想像したことがあるのだろうか〉〈雇用維持という目的は、やがて「会社の赤字を解消させるため」という会社の利益に大きくすり替わっていなかっただろうか〉と経営陣を強く批判。根本的な原因として、創業者である取締役が、実質的な経営トップとして指示していたことを挙げた。社長や監査等委員を含め、是正を求めることなく、放置・黙認していたとしたという。同社は今年7月29日付で、取締役で同社の創業者、若林和芳氏が辞任したと発表している。
雇用調整助成金制度は、コロナ禍で事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るために労働者を休業させる措置を講じた場合に、事業主に対して支給される。同社はネットの普及で紙媒体の広告減少などで苦しんでいたところ、コロナの影響を強く受けたという。
同社グループは、15年ほど前、障害者団体向け郵便割引制度を悪用して郵便法違反罪に問われたことでも話題になった。
【ウイルコHD】特別注意銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求に関するお知らせ
https://www.release.tdnet.info/inbs/140120241025503295.pdf
「ホンダ」が2745億円の自社株買いを終了
東証プライム上場のホンダは、今年5月10日に公表した最大3000億円の自社株買いの計画を終えたと発表した。今回買ったのは計1億8000万株で、2745億円分になった。大手自動車メーカーでは、トヨタ自動車が今年5月、1兆円規模の自社株買いの計画を公表して話題になっていた。日本の上場企業が自社株買いの規模を競っているような状況になっている。
【ホンダ】自己株式の取得結果および取得終了に関するお知らせ (会社法第 459 条第1項の規定による定款の定めに基づく自己株式の取得)
https://www.release.tdnet.info/inbs/140120241025503054.pdf
長野地銀「八十二銀行」温室効果ガス削減で新たな目標
東証プライム上場で長野県を地盤とする八十二銀行は、温室効果ガスの新たな排出量の目標を設定したと発表した。同行は2023年6月、 長野県内の森林保全管理による吸収量などのカーボンクレジットを使い、国内の銀行で初めて排出量を差し引きゼロにする「ネットゼロ」を達成したことを公表。このため、今回はリースやカード会社など対象をグループに広げ、25年度までネットゼロを目指すことなどを掲げた。
【八十二銀行】中期経営目標の変更について
https://www.release.tdnet.info/inbs/140120241025502766.pdf
水産食品「極洋」がタイの最高裁で敗訴
東証プライム上場で水産食品の極洋は、同社子会社がタイの最高裁判所が約2億8000万バーツ(12億円)をタイの会社に支払うことを命じる判決を言い渡されたと発表した。タイでの生産を委託していた加工会社が2015年に倒産して法的手続きに入ったが、この時、同加工会社が売掛債権をタイ大手銀行、クルンタイ銀行(KTB)に売却。17年末からKTBから支払いを求められていた。極洋は判決内容を精査し、今後の対応を決める方針。魚介類や水産加工品もその半分ほどを輸入に頼る時代になり、海外での事業リスクは今後も高まりそうだ。
【極洋】当社子会社に対する訴訟の判決に関するお知らせ
https://www.release.tdnet.info/inbs/140120241025503052.pdf
半期最高益「野村不動産HD」株式分割で“投資家層拡大”を目指す
東証プライムの野村不動産ホールディングス(HD)は、1株を5株に分割することを発表した。「投資単位の金額を引き下げ、投資家層の拡大を図る」としている。2025年4月1日から始めるとしている。具体的には、現在の1億8342万3137株を9億1711万5685株に分割する。野村不動産HDの株は10月25日終値で3750円、売買単位は100株となっている。なお、同社の24年4~9月期の連結決算は425億円と、同期間としては最高益だった。
【野村不動産HD】株式分割および株式分割に伴う定款の一部変更に関するお知らせ
https://www.release.tdnet.info/inbs/140120241024501957.pdf
阪大発バイオベンチャー「ステムリム」の取締役候補が突如辞退
東証グロース上場で、「再生誘導医薬」の開発を掲げる大阪大学発のバイオベンチャー、ステムリムが土曜日の10月26日、突如、再任取締役候補議案を一部撤回することを発表した。土曜日の適時開示は異例だが、今回再任を辞退したのは、取締役会長の冨田憲介氏。2013年から取締役会長を務め、18年には社長にも就任していた(現在の社長CEO=最高経営責任者は三井住友銀行・大和証券出身の岡島正恒氏)。リリース文面によると、富田氏本人から辞退する旨の申し出があったという。なお、再任は10月30日に開催される定時株主総会の会社側議案になっていた。
【ステムリム】第19期定時株主総会付議議案の一部撤回に関するお知らせ
https://www.release.tdnet.info/inbs/140120241026503324.pdf
(平日連載、2024年10月28日公表分に続く)
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