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第4回【佐藤隆文×八田進二#3】不祥事発覚こそ「ガバナンス改善」のチャンス

第4回#2から続くプロフェッショナル会計学が専門でガバナンス界の論客、八田進二・青山学院大学名誉教授が各界の注目人物とガバナンスをテーマに縦横無尽に語る大型対談連載。シリーズ第4回のゲストは、大蔵省から金融庁に転じ、金融庁長官、そして東京証券取引所自主規制法人(現・日本取引所自主規制法人)理事長を務めた佐藤隆文氏。#3記事のテーマは、近年、頻発が著しい企業不祥事について。そんな危機的状況でこそ、企業のコーポレートガバナンスが試されることになる――。

金融機関は事業会社の「ガバナンス」の監視役を果たせるか

八田進二 (#2から続く)ところで、事業会社に融資する立場の銀行は経営の監視・監督役を務めていると思われますか。

佐藤隆文 いや、今はもはやそういう位置づけではないのではないでしょうか。銀行が融資先企業の業務執行に対し(良い意味でも悪い意味でも)監視機能を持っていたのは、せいぜい1980年代半ば頃、バブル経済の直前くらいまでだと思います。私はもう金融庁を離れて14年経っていますので、今の実態を知りません。その前提でのお話ですが、他方で、金融機関が事業会社のコーポレートガバナンスに好影響を与えるルートが完全に消滅しているかと言われれば、それはまだ残っていると思います。ただ、今の金融機関は自分のことで精一杯のように見えますね。

もちろん金融機関は、融資先企業に対しては債権者という立場でモノを言える存在ではあります。債権が約定にそって回収され、資金提供サービスを継続できることが金融機関にとっても望ましいわけですから、融資先のコーポレートガバナンスがしっかりしているということは金融機関側にとっても望ましいことです。とはいえ、大企業と中堅・中小企業に分けて考えると、大企業は内部留保がたっぷりあって銀行の融資に依存しなくても事業は成り立つ。したがって現在は、決済サービス、そしてプロジェクトファイナンスやM&Aなどのディールといった面を中心に、大企業は銀行と関係を持つにとどまっている。したがって、銀行が大企業に対して経営への監視・監督機能を発揮できる状況にあるかというと、それは疑問で、個別の状況、個別の力関係による部分が大きいのでしょう。他方、中堅・中小企業は今も銀行とは融資でつながっている。ですから、中堅中小企業についていえば、銀行からコーポレートガバナンスの面でポジティブな影響を受ける、もしくは受けているという可能性は排除したくないと思っています。

佐藤隆文・元金融庁長官(撮影=矢澤潤)

八田 これも確か、佐藤さんが金融庁長官だったころに打ち出された方針だったと思いますが、地銀や信金、信組などの地域金融機関に、リレーションシップバンキング(通称「リレバン」)の推奨をなさっていますね。

佐藤 リレバンの奨励は2003年頃からなので、私が金融庁長官になる数年前からです。単純にお金だけ貸して金利を取るという関係ではなく、本当に融資先のことを考えて、この企業はこういう分野で高い専門性を持っている、高い技術を持っている、ということがあるのなら、そうした特長を見抜いて、その当該企業に取引先を紹介するといった、ビジネス・マッチングの機能を発揮する道はあるでしょう。上手く整理すれば、銀行は情報の宝庫なのですから。こういった趣旨は、金融庁として銀行との対話の中で頻繁に話題にし、それを実践してもらうための枠組みも考えました。リレバンが上手く進めば、融資の不良債権化も防げるわけです。この方針は今も変わっていないと思います。融資先企業のことを本当に真剣に考え、その企業の業績や企業価値の向上に貢献したいと考えているバンカーがいれば素晴らしいことだと思いますし、そういうバンカーには銀行自体も組織としてしっかりと光を当てて高く評価してほしい。それは昇進昇格、報酬の面でも評価する仕組みを金融機関の中にしっかり入れ込むことが大切かと思います。

八田 実際のところはどうでしょう。

佐藤 金融庁を離れて14年ですし、この目で金融機関の現場を見ているわけでもありませんので、お答えできません。この間、超緩和の金融政策が続き、金利が極端に低くて、預金受入と貸出を中心としている金融機関にとっては、利ザヤが取れず逆風が吹き続けたのは事実でしょう。如何せん、今の金融機関は自分のところの経営だけで精一杯というところが少なからずある。現実としてどうかというと、金融機関ごとに事情は相当異なるのではないでしょうか。

「不祥事を繰り返す企業」と「繰り返さない企業」の違い…
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