第11回【久保利英明×八田進二#3】この国のガバナンスは大丈夫か!?
「一票の格差訴訟」と「司法改革」
八田 2007年に金融商品取引法の中で内部統制報告制度ができた時に「日本内部統制研究学会」が発足しました。それから15年、内部統制のみならずガバナンスやリスク管理という視点で学術的・実践的な知見を提供すべきだという議論があり、名称を昨年(2022年)、「日本ガバナンス研究学会」に名称変更しました。そして、久保利先生は初代会長に就任されました。
久保利 現在、学会の会員は250名程度です。まずは私が会長に就任して感じたことは会員数を増強することが必要だということです。また、会員の内訳を調べると、弁護士も少ない。公認会計士のみならずガバナンスを真剣に研究、実践しようという意欲のある人、それは経営者でもいい。それなりの見識のある人たちをできるだけ引っ張り込んで、倍増させないと駄目だろうと思って、会員倍増の500名という目標を立てました。会長の任期はあと2年あるので、その間に毎年100名ずつ増えれば、会員の裾野が広がっていくと思っています。会員数が増えれば、研究の深度も変わってくるし、学会の立ち位置も変わってくる。3年の任期を会員倍増に捧げたいと思っています。
八田 組織運営、経済社会の規律付けを確保していくことは、ガバナンス抜きには語れません。日本国民に広くガバナンス的な知見というか、基礎知識は持ってもらいたい。そのためにも日本ガバナンス研究学会は、久保利先生が会長になっていただいていることは非常に力強いですよ。
久保利 でも、会社はかなり良くなりました。この国は、民より官が駄目なのです。国家ガバナンスって何なのかという視点を、もう一段ステージを上げて広めたい。今、企業のガバナンスはどうなのか、大学のガバナンスはどうなのか、病院のガバナンスはどうなのか、学会のガバナンスはどうなのか……と、みな、さまざまに言っていますが、「いや、待てよ、そもそも「一票の格差」を放置しているこの国のありようがおかしいのではないか」というところまで突き詰めると、この国を大きく変える力になる。そうなると学会の会員数も500や1000では足らないと思いますよね。
八田 そういう点では、先生は日本という国家とも戦っています。一票の格差訴訟、アンフェアな状態が続いていますが、国民には危機意識も問題意識も共有されていない印象です。
久保利 大前提として、日本では国家のガバナンスがまともに機能していない。はっきり言えば、この国は国民主権国家ではないと思っています。現実は“国会議員主権国家”で、本来は国民から選ばれるべき国会議員が3代4代と承継されて、彼らの「家業」になっている。
憲法には、主権者たる国民は選挙を通じて、代表機関である国会を経由して政治をすると書いてあるわけです。だから、内閣総理大臣は国民の過半数によって選ばれていないといけません。しかし、現実は人口比例選挙ではなく、大きな一票の格差がある。つまり、少数の国民が多数の国会議員を選び、そこで総理が選ばれることになる。これでは民主国家とは言えません。国民国家としては存立基盤が怪しい、正当性がない国だということになります。
八田 日本は他国と比較しても投票率がとても低いですが、これは政治に期待していないからでしょう。一方、それは国民としての義務を放棄しているとも言える。例えば、投票を義務化するという考えはどうですか。
久保利 国民はもう政治にギブアップして、この国を捨てているのです。例を挙げれば、少子化問題というのは、国民が政治に対して不信任を起こし、この国に将来を委ねられないという絶望が原因だと思っています。だから、私はこの国は早く潰れて、早く立ち上がればいいと考えています。潰れたならば、新しい芽が吹いてくる。敗戦後の立ち直りの素早さは見事でした。要するに、この国はみんなで救おう、救おうとするがために、かえって救えないというジレンマに陥っているような気がするのです。逆に、世襲議員に支配されるよりも、もう誰も選挙に行かない方がましではないでしょうか。投票を無理矢理義務づけるよりもその方がいいのではないか。暴論ではありますけれども、そう思っていますよ。地方公共団体の選挙はそうなりつつあります。
八田 よく分かりました。それに加えて、司法改革も先生のメインテーマですよね。
久保利 そうです。日本の司法は弱すぎる。その原因は弁護士の数です。女性であろうと、外国人であろうと、ロイヤーをたくさん増やすことが必要になる。こういうことを言うと、「お前は食うに困らないから、そういうことが言えるんだ。こっちはジリ貧なんだ」と反論されるんですが、そうではなくて、食える道筋を自らが作ればいいのです。
私は常々、「法廷の出入り業者だけが弁護士の姿じゃない」と言っているのですが、まさにソフトロー、コーポレートガバナンス・コードも含めて、どう社会の道筋を作っていくかというのがリーガルの本来の役割です。世界の取引ルールを作れる英語のできる弁護士が万人単位で欲しいのです。だから、もうひとつのメインテーマは、弁護士の充実と司法の拡充です。来年4期目を迎える私が主催する久保利塾には毎期20名以上が入塾してくれています。後継者には何十人もの志のある弁護士がいます。そして、私より大先輩の先生方も応援してくれる。弁護士の数を増やし、若手も古参も一緒になって新しいリーガルシステムを作っていく。これが来年80才になる私の夢ですね。
八田 本日は貴重なお話、大変勉強になりました。ありがとうございました。
(了)
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