「息をするように詐欺をする」ミンコウの不正のトライアングル
バリー・ミンコウの犯罪行動を説明する上で、クレッシーの不正のトライアングルは有効な枠組みとなる。この分析では、動機、機会、正当化という3つの要素がどのように彼の不正行為に影響を与えたのかを探る。さらに、それぞれの要素に関連する本人のインタビューでの発言を引用しながら、彼の犯罪行為を詳しく見ていきたい。
1.動機
資金繰りの逼迫
ミンコウの場合、彼は未成年でビジネスを立ち上げ、事業成長を目指す中で資金繰りに行き詰まり、プレッシャーに直面していた。
「私は16歳でカーペットクリーニングの会社を始めたが、設立当初から赤字だった。銀行から融資を受けるのは非常に困難で、資金繰りのためにあらゆる手段を試した」
「給料の支払いに追われていた。学校に通いながら従業員に給料を払わなければならなかった」
ミンコウは、事業の継続・拡大に必要な資金を調達するため、銀行や投資家を欺くことに手を染めていったという。最初は合法的な方法で資金を集めようとしたが、次第に虚偽の財務報告を作成するようになったと彼は弁明する。
2.機会
不正環境の構築
ミンコウには、監査の甘さを利用し、自分で会計処理を行い、虚偽の財務報告や架空の契約を作成する環境をつくり上げた。
「私は会計士や監査人を欺く必要があった。財務報告の数字を実際よりも良く見せるため、架空の保険修復契約を作成し、存在しない売り上げを計上した」
「私は偽のベンダーを作成し、架空の請求書を発行した。これにより、資金の流れを捏造することができた」
彼の会社は急成長しているように見えたため、監査法人や投資家はそれを疑問視せず、形式的な監査しか行わなかった。その結果、ZZZZベストのビジネスモデルに対する徹底した検証が行われることはなく、不正が長年にわたって継続した。
3.正当化
成功のための必要悪
正当化とは、不正行為を「やむを得ないこと」「最終的には問題にならないこと」と自分に言い聞かせる心理的な過程である。これまで本企画で取り上げたフロードスター同様、ミンコウも正当化をしていた。
「誰も損をしているわけではない。私は事業を成長させるためにやっているだけだ」
「私は常に『あと少しで合法的なビジネスに戻れる』と思っていた。もし十分な資金を調達できれば、すべてを清算し、完全に合法な会社にすることができると信じていた」
ミンコウは、資金繰りの苦しさを「一時的な問題」と捉え、詐欺行為を将来の成功のための手段として正当化した。さらに、彼は最終的に詐欺を終わらせて“クリーン”になるつもりだったと主張しているが、実際には不正が発覚するまで不正行為を止めることができなかった。
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ミンコウの事例は、不正のトライアングルの要素がそろったときに、いかに大規模な詐欺が生まれるかを示している。しかし、それだけではなく、彼の巧みな話術やカリスマ性が、人々を欺く重要な要素となったことも見逃せない。
監査人や投資家が彼の虚偽の財務報告を見抜けなかったのは、単に「機会」があったからだけではない。ミンコウが人々の心理を巧みに操り、疑念を抱かせないように誘導していたことにも起因している。
彼はインタビューで「監査人も人間であり、感情を持つ。人間には“操られる力”や“騙される力”がある」と、人間の感情を利用すれば、より信頼されるように振る舞うことができると語っている。
これは単なる書類の改ざんや財務操作だけでなく、人の心を動かすことで成り立つ詐欺の典型例である。
このことはまた、単に内部統制を強化し、監査プロセスを厳格化するだけでは不十分であることを示唆する。不正を防ぐためには、手続きの強化だけでなく、人間の心理的盲点を理解し、それに対処する必要がある。特に、カリスマ性を持ち、説得力のある人物に対しては、客観性を持って接し、過信しないことが重要だ。
実際にミンコウ自身、「監査人はプライドを捨て、客観性を保つべきだ」と語っている。
まさに「どの口が言う」の典型だが、自身の悪行を逆手に取ったミンコウの言葉は、不正を防ぐために必要な心構えを端的に表しているのも、また事実である。不正のトライアングルを理解し、「機会」を減らすだけでなく、人間の心理的な弱点を考慮に入れることが、より効果的な不正防止策につながるのではないだろうか。
それでも、「息をするように詐欺を働く男」に諭されるのは何とも皮肉ではある。
(了)
なお、本誌Governance QとACFE(公認不正検査士協会)本部連携の当連載「米国『フロードスター』列伝」は今回の第10回をもって一旦終了となります。
ACFE本部リソース
ACFE本部によるミンコウへのインタビューは、以下のオンデマンド動画(有料)やYouTube動画(無料)で視聴できる。
・Conversation with a Fraudster Barry Minkow
ウェビナー(オンデマンド)ACFE Ethics CPE: 2 *すべて英語
https://www.acfe.com/training-events-and-products/all-products/product-detail-page?s=Conversation-with-a-Fraudster-Barry-Minkow
・YouTube ACFE公式チャンネル (英語)
The Fraudster's Perspective - Barry Minkow - Fraud Magazine - May/June 2011
「詐欺師の視点 - バリー・ミンコウ - Fraud Magazine - 2011年 5月/6月」
上記ウェビナーの一部抜粋した動画(約3分47秒)*すべて英語