【米国「フロードスター」列伝#8】世界企業「シスコ」を騙して“13万ドル不正転売男”の虚飾と末路

シスコの“隙”を突く不正スキーム

先述の通り、シスコのパートナー企業のアカウントマネージャーとして勤務していたスタンランドは、法人顧客がサービス契約に基づいて新しい部品やサービスを入手する支援にも携わっていた。

その職務の一環で、彼は、シスコのオンラインページで、顧客に代わってサービス依頼を行っていた。そのような業務を通してシスコのサービス契約の仕組みを熟知していた彼は、ある時、その仕組みの隙間を突く不正スキームを思いついた。

まず、スタンランドは、eBayといった中古市場でシスコのルーターやスイッチのシャーシ(ケース)を購入した。こういったシャーシにはシリアル番号が付いているため、実際は中身がなくとも、シスコのシステム上においては「有効な機器」として認識されたのだった。

次に、そのシリアル番号を利用してサービス契約を複数結んだ。スタンランドの勤務先はシスコの認定パートナーであるため、彼は会社を通して難なくサービス契約を取得することができた。その際、架空の会社をいくつもつくり、それぞれ異なる名前の担当者を設定、複数の契約を並行して運用した。

シスコのサービス契約では、シリアル番号が登録された機器に問題があれば、新品の交換部品を発送し、後から故障品を返送させる仕組みになっている。そこで、スタンランドは、購入したシャーシに付属したシリアル番号の機器が故障したかのように偽装し、サービス依頼をした。

そしてシスコからの交換部品を受け取ると、スタンランドはそれらを“グレーマーケット”の販売業者に転売し、利益を得たのだった。一方、本来なら純正品をシスコに返品するところ、グレーマーケットで得た中古品やサードパーティー製機器を返送したか、あるいは機器をまったく返送しなかった。ちなみにグレーマーケット商品の購入や再販売そのものは違法ではないが、スタンランドのこの一連の行為は違法である。

このスキームにより、スタンランドはシスコから600個近い部品を不正に入手した。各部品の小売価格は約500~8600ドル(約4万8000~84万円)、シスコの損失総額は約83万4000ドル(約8100万円)にのぼった。

彼はシスコに対し1日につき1~10件を週に3~5日のペースで繰り返し、全部で600件近くもの虚偽のサービス依頼を行った。初期段階では、私書箱を利用するなど、慎重を期して不正を行っていたが、依頼頻度が増すにつれて、受け取り住所も自宅や妻の会社の所在地を利用するようになる。すると、同じような依頼が頻繁に発生するようになり、やがてそれはシスコの目にとまることとなる。