内部通報制度を機能させないことにより生じるリスク
現行法では、従業員数300人を超える企業には内部通報制度の整備が法的義務とされており、従業員数300人以下の企業でも努力義務とされています。この従業員数には、アルバイト、契約社員、派遣労働者等も含まれます。
内部通報制度を機能させるための前提である「従事者指定義務」や「体制整備等義務」の履行が進んでいない事業者は、「内部通報制度を機能させないと自分たちにどのようなリスクが生じるのか」を、今一度、真剣に考える必要があります。
法律・法令に反する不正行為、粉飾決算といった不適切会計、さらには悪質なハラスメント行為……こういった問題事象を企業側が内部通報で把握することなく、もしくは把握しても適切に対応せずに、その情報が外部に流れ、企業が社会からの非難の対象となり、社会からの信用を失うことは、企業価値を著しく毀損する重大なリスクです。
長期間にわたり社会から高い評価を受けていた企業が、問題事象の発覚を契機として、社会から非難をされることにより、企業価値を著しく毀損した事例は、枚挙に暇がなく、記憶にも新しいところです。企業は社会からの信用により成り立っているものであり、社会からの信用を失えば、事業活動を継続することが困難となります。
社会からの非難の程度が大きい場合には、行政機関からも是正措置の必要性が高いと評価され、重い処分が科される場合もあります。
先ほど、従業員数300人以下の企業は努力義務と言いましたが、従業員数300人以下でも株式を上場している企業はたくさんあります。勤務先の内部通報制度が適切に機能しておらず、情報が外部に流れ、社会からの非難の対象となり、企業価値を著しく損ねた場合には、株主代表訴訟に発展し経営者の責任が追及される可能性も拭えません。
これが、従業員数300人超の企業であればなおさらです。企業規模が大きければ、社会から非難されるリスクはより高まります。
ところが、消費者庁が24年4月に公表した全国の事業者を対象にした調査の結果によると、例えば、従業員数300人超の非上場企業の18%が「制度は知っているが、担当者を指定していない」「制度すら知らないし担当者も指名していない」と回答しています。内部通報制度の最低限の基準である公益通報者保護法が履行されていない企業が少なくないのが実情なのです。