社外役員が備えるべき「不正防止」の感度
そもそも当該企業で不祥事が起こったということは、たとえ執行に関わっていないとはいえ、社外役員にも監視・監督の点で何らかの改善点があったはずですし、責任の一端もある。ゆえに、調査委委員を兼ねる場合は、不祥事の真因を追求しながら、自らも反省するという難しい立場に立たされます。
社外役員は平時では取締役会をはじめ、さまざまな会議に参加したりするわけですが、それだけで不正、不祥事を防止することは難しい。何も発生していない段階から、リスクというものを具体的に見えるようにしていくことを心がける必要もあるでしょう。
例えば、内部通報の実績を知るために通報件数を見ます。その時に、この従業員数だったら年間、これぐらいの通報件数があれば機能しているといった表面的な見方ではなく、その会社の実情に即した形で数字を見る必要があるのです。
内部通報の件数が一般に比べて少ないと、窓口が十分に機能していないと思うでしょうが、いろいろな部署の方に聞いてみたら、実は通報窓口を使うまでもなく、通常のレポートラインが充実していて、きちんとその中で不正の種になるようなことを掬い上げて対応していることもあるわけです。
このように社外役員はその会社の実態に即した形で平時にやるべきことに注力して不正防止に繋げていく役割もあることを忘れてはいけないと思います。
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不正・不祥事は「起きてはならぬもの」として、いかにその発生をゼロにするための仕組みづくりをするかということを重視している企業は多いと思います。そして、そのことは間違っていないと思います。
ただ、そのような考えに傾いてしまうと、不正・不祥事は、水面下に潜りこみ、気づいたときには企業にとって致命的な損害を与えるレベルの大きさになっているということも。不正・不祥事を「どんなに防ごうとしても発生してしまうもの」と捉え、それがまだ小さな芽のうちに発見するための仕組みづくりを考えることはとても大事なことだと思っています。
そして、その際、不正・不祥事の芽を、ネガティブなものとしてのみ捉えるのでなく、企業にとって、膿を出してさらに成長を遂げるための機会と捉え、不正調査、再発防止策の実行に対し前向きに向き合っていくことが、企業の長期的な企業価値向上につながるものと考えています。
私は、不正調査に関わる弁護士として、「犯人捜し」「犯人の責任追及」などという視点から少し距離を置いて、関わる企業のさらなる発展のために調査、再発防止策がどのようなものであるべきか、という視点を大事にしていきたいと考えています。
(取材・構成=編集部)