八田進二教授が考える「第三者委員会5箇条」《前編》【第三者委と不正検査の現在地#1】

一方、会計の世界の考え方はそうした発想とは別のものである。会計界の人間は不適切と疑われる会計について、その時点でどのようなデータや材料をもとにして、どのような判断プロセスを経てそのような会計処理をしたかを検証する。そして、その時点で恣意的な会計処理をしていないと判断できれば、“シロ”ということになる。

それは「経営判断の原則」(株式会社の取締役が行った判断について、判断の前提となった事実認識に不注意な誤りがなく、判断の内容に著しく不合理なものがない限り、善管注意義務違反または忠実義務違反を認定すべきでないとする考え方)であり、結果的に予測や見積もりが外れ、不幸にも会社が潰れたとしても、経営陣が責任を問われることはないのだ。

会計不正は一例に過ぎないが、要は、不祥事事案によって、第三者委にはその案件に精通した専門家を入れるべきということである。不適切会計が指摘された場合は公認会計士などの会計専門家を、自動車のデータ不正であれば車両の品質管理の専門家、食品関係であれば生命科学などに精通した研究者といった具合に選任すべきであって、委員全員が弁護士一辺倒になることはない。

ただ、第三者委が不正を前提にしている以上、委員は不正調査に長けた人物でないと務まらないのも事実だ。その点で言えば、フジテレビで第三者委を構成した竹内弁護士や山口利昭弁護士のように公認不正検査士(CFE)の資格取得者は適格性を有した存在と言えるだろう。

CFEは米国発の不正対策の専門資格で、有資格者は不正調査の手法を掘り下げて学んでいる。近年の第三者委の委員に就く弁護士や会計士などは、その肩書とともにCFEであることを明示するケースも増えている。

もっとも、こうした専門性は言うに及ばず、第三者委の委員には当然、高い独立性と倫理性が求められる。それらを兼ね備えている人物が第三者委の委員になって初めて、彼ら・彼女らが行った調査に対して、社会は全幅の信頼を持って受け入れることが出来ることは言うまでもない。

そもそも「第三者」という言葉は監査論の領域においても非常に重要なキーワードで、「独立の第三者が行う監査」などという言い回しがよく使われる。一方、法律・法曹における第三者とは、単に“原告と被告以外の者”という意味合い程度に使われているように思われることがしばしばある。

第三者委の報告書を長く格付けしてきた立場からすると、ともすれば、第三者委委員が設置した企業およびその経営者を、単に業務の“発注者”と捉えているのではないかとの疑念を抱かせる報告書も目にしてきた。 誰を委員に選ぶか――。この問題は第三者委員会というシステムそのものの信頼性を揺るがしかねないものなのである。

(取材・構成=Governance Q編集部、後編につづく