子会社・関連会社までを含めたグループ全体のコーポレートガバナンスが求められる大手企業。一方、大手企業グループには必ずと言っていいほど、不動産子会社が存在するが、近年、独立採算が求められ、そうした大手企業傘下の不動産子会社が独自のプロジェクトを進めるケースが増えてきた。そんな中、グループガバナンスの蟻の一穴となりかねない事案も発生しているという。時として企業不祥事の発火点となり得る不動産子会社の個別事案を取り上げる。
電機関連企業子会社が手を出した新宿の“事件物件”
大企業の子会社が不祥事を起こすことは稀ではないが、以下の2例は、大企業の「不動産子会社」が起こしたトラブルである。
1件目のケースは、関西発祥の電機関連企業の不動産子会社A社が、東京・新宿区の古い雑居ビルを購入した時のことだ。雑居ビルは繁華街に近い住宅地にあり、A社はビルを解体して高級マンションを建てる計画を立てた。しかし、このビルは“事件物件”だった。
地元の地主がビルを建てて30年過ぎて亡くなり、相続争いが起きてビル売却の話が出ると、暴力団の企業舎弟が目を付けた。企業舎弟は、ある企業の御曹司を表に立て、金融機関から融資を引き出してビルを取得し、高額での転売を図った。
しかし店子の立ち退きが進まないうちに、企業舎弟と御曹司が行っていた別の事業が破綻、資金繰りに窮し、この雑居ビルを担保に借金を始めた。
当時、ビルに残っていた店子は数軒ほどに減り、見た目は幽霊ビルになっていた。登記を見れば、10億円、5億円、2億円……と、金融業者により抵当権(極度額)が次々と設定され、権利関係が複雑化していた。
A社は、このビルの建物と土地を約30億円で購入した。不動産業界で、このビルが“事件物件”として知られ始めた矢先のことだったが、購入直後に二重売買が発覚した。
企業舎弟は、御曹司との事業が破綻するとビルの所有者名義を変えて売却を図り、ある不動産業者が買い主となり、手付け金まで取っていた。そこに、より高く買ってくれるA社が現れたため、最初の買い主に対して譲渡を引き延ばした。A社が決済して所有権が移ったことを知ると、最初の買い主は、売り主に対して民事訴訟を提訴したのだ。
A社は、事情を知らない「善意の第三者」としてマンション建設の強行を試みたが、結局、1年以上も塩漬けにした後、安値での売却に追い込まれた。
元バブル紳士絡みの不動産に嵌まった関西エネルギー企業子会社
もう1件は、関西のエネルギー関連企業の不動産子会社B社が1000坪の土地を購入した時のことだ。
場所は山手線沿線の住宅地。B社は、100戸を超える大型マンションを建てる青写真を描いた。高い部屋は1億円以上で、建設費を含めれば50億円を超える大型プロジェクトである。
もともとは、地元の大地主が、所有する土地の一部を再開発する計画を立てた場所だった。土地の所有権は再開発を担う業者に移されたが、売買代金は大地主に渡らないまま、再開発は迷走した。挙げ句にさまざまなブローカーが介入、金融業者による抵当権が次々と付けられ、登記上、所有権の移転登記や抹消が繰り返された。
土地が債権者によって不動産競売にかけられた時、都内の不動産業者が目を付けた。バブル期に事業を拡大したが破綻、債権回収妨害で摘発された後、細々と事業を続け、70歳を超えた元バブル紳士である。
元バブル紳士は、競売落札資金を融通してくれるスポンサーを見つけ、落札に成功し、方々へ売却を持ち掛けた。一番高い値を付けたのがB社だ。
問題は地上げだった。土地はほぼ更地になっていたが、店舗や住宅が数軒残っていた。元バブル紳士は、地上げを完了して引き渡す契約を締結し、10億円の手付け金を受け取ったが、地上げを完了せずに逃げてしまったのだ。
B社は、自身で地上げ、または第三者に地上げを依頼することもできた。しかし一転して、引き渡し期限を前に売買契約を解除した。
B社は手付け金を取り戻すことはできた。しかし社内で検討、契約を締結し、マンション建設の青写真を描いて……と、プロジェクトに半年以上の時間をかけたことを考えれば、多大な損失だったと言える。