「企業トップを狙え!」米国は超党派で厳罰姿勢【海外法務リスク#3】

民主・共和両党ともに… 米議会の突き上げ

ブルームバーグによると、2023年12月に開かれた上院司法委員会の公聴会で、共和党の重鎮、チャック・グラスリー議員は司法省のニコル・アージェンティエリ刑事局長代行に対し、2022年度の統計を引き合いに、司法省が立件した企業事件のうち個人の訴追率が60%にとどまっているのはなぜかと問いかけた。

それに対し、アージェンティエリ氏は、「われわれは最も影響を及ぼし得る案件を手掛けようとしており、そうした案件は複雑で時間がかかる公算が大きい」とし、リソースの面で制約があると釈明した。

その上で、「先月有罪を認めた暗号資産(仮想通貨)取引業世界最大手のCEOを含め、今年これまでに30人超の企業幹部を訴追している」と、実績を強調した。

この刑事局長代行が言及した企業は、世界最大の暗号通貨取引所であるバイナンス(現在の本社所在地はマルタ)のことで、マネーロンダリング(資金洗浄)対策を怠り、制裁対象となっているイスラム組織ハマスの関係者らによる違法取引などを容認していたとされた。司法省は法人としての同社と、創業者でCEOのチャンポン・ジャオ氏を刑事訴追。昨年11月、同社は違反事実を認め、ジャオ氏は辞任した。

結局、同社には計約43億ドル(約6200億円)の罰金が科され、ジャオ氏には今年4月、禁錮4カ月の判決が言い渡された。

「経営者も刑務所送りに!」

米国における企業トップの責任追及の事例として、たまたま米国以外の企業の事例を挙げてきたが、外国企業に対する差別的な対応が明確に存在するわけではない。

事実、同じ公聴会で、司法委員会のディック・ダービン委員長(民主党)は、司法省は訴追延期合意や「不起訴合意(NPA)」といった司法取引を多用する一方で、企業幹部に責任を取らせて刑務所送りにすることを怠っていると指摘。その矛先は米国企業にも向けられた。

特に、医療用麻薬オピオイドの中毒が広がった責任を問われた末、2019年9月に経営破綻(連邦破産法11条=チャプター11の適用を申請)した米製薬会社パーデュー・ファーマが2020年10月、83億ドル超(現在のレートで約1兆2000億円)の和解金支払いで司法省と合意した事例に言及。「(創業家の)サックラー一族に対する刑事訴追が全く行われないのはなぜか」と、刑事局長代行のアージェンティエリ氏に質した。

これに対しアージェンティエリ氏は、パーデューが法人として3件の重罪となる訴因で有罪を認めたほか、解決金の支払いなどを受け入れた点を説明。ただ、この件に関しては司法省刑事局ではなく、民事局の担当だと語った。

かわされたダービン委員長は、「基本的なメッセージは、資金が潤沢なら制度の抜け穴を利用できるということだ」と、金銭的な処分で済ませるだけで、トップの刑事責任を徹底的に問わない司法制度の欠陥を指摘した。

米航空機大手ボーイング製の737MAX機が2018年にインドネシアで、2019年にエチオピアで墜落し、計346人が死亡した事故をめぐっても、刑事訴追は見送られ、最終的に今年7月、約350億円の罰金支払いを柱とする司法取引で決着した。

多数の犠牲者を出しただけに、トップの刑事責任を問う声は根強い。米国では市民レベルでも、政治家の間でも、問題を起こした企業及びその幹部の責任を追及する声は強く、程度の差こそあれ、超党派で姿勢は一致している。

米国司法に詳しいベーカー&マッケンジー法律事務所の井上朗弁護士は、2024年大統領選の結果、カマラ・ハリス氏(民主党)、あるいはドナルド・トランプ氏(共和党)いずれの政権になろうと、「詐欺からカルテル、贈収賄に至るまで、ホワイトカラー犯罪に対する取り締まり姿勢は劇的には変わらないだろう」との見方を示している。

 (#4に続く)