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「企業トップを狙え!」米国は超党派で厳罰姿勢【海外法務リスク#3】

有吉功一:ジャーナリスト、元時事通信社記者

(前回までの記事はこちらから)経済のグローバル化に伴い、外国の法規制に違反すればビジネスパーソンは国際指名手配されたり、実刑を受けたりするリスクに直面する。企業トップも例外扱いされない。特に米国では、日本の小規模企業から、世界に冠たる大企業のトップまで、訴追される事案が現実に発生している。当局としても一般社員よりも幹部社員、その中でもトップの“首”を取れば、企業不正の抑制効果が大きい上、実績にもつながるため、今後もトップに対する責任追及の手は緩めないとみられる。

自国内の“社長室”にとどまっていても安全ではない

廃棄物処理会社の関東砿産(横浜市)の今橋聡二郎代表(当時)ら3人が2021年2月、米海軍との契約に違反し、艦艇から出る汚染廃水を適切に処理しないまま海に投棄していたとして、共謀や詐欺、虚偽請求の罪で米大陪審に起訴された。

契約では、日本の環境基準を順守していることを証明するため、定期検査を実施し、結果を提出するよう義務付けられていた。しかし実際は、汚染廃水のサンプルではなく、水道水を入れたタンクからサンプルを採取することで、不法投棄が発覚するのを逃れていた。

投棄したのは日本の海だったが、米海軍との契約を守らなかったことが問われた。日米犯罪人引き渡し条約に基づく3人の身柄引き渡し要請はなされていないもようだが、3人は国外に出られない状態となっている。

関東砿産は従業員数、わずか17人(2022年9月30日現在、同社ホームページより)の小規模企業だが、大手も手加減されない。

2015年9月、米環境保護局(EPA)は、世界の自動車市場でトヨタ自動車と覇を争うドイツ自動車大手フォルクス・ワーゲン(VW)が、排ガス規制をすり抜けてディーゼルエンジン車を米国で販売したとして、48万台のリコール(回収・無償修理)を命じたと発表した。これをきっかけに、自動車業界における前代未聞の大規模不正事件「ディーゼルゲート」へと発展していった。

VWのマルティン・ウィンターコルン氏は、問題が米国で表面化した当時、会長兼最高経営責任者(CEO)の座にあった。数日後に引責辞任したが、2018年3月、米国で起訴された。

起訴は当初、非公開だった。公開されたのは同年5月。ウィンターコルン氏は当時、ドイツ国内にいたが、その間に国外に出ていれば、第三国で逮捕されていた可能性がある。

ドイツは基本法(憲法)で、「いかなるドイツ人も外国に引き渡されてはならない」と謳っており、国内にとどまる限り、米国に引き渡される恐れは基本的にない。ただ、ウィンターコルン氏はドイツ国内でも起訴されており、今年9月に公判が始まる予定だ。現在77歳と高齢で、健康問題も抱えているとされ、数カ月は続くとみられる公判に耐えられるか、不安視されている。

「人質外交」で釈放されたファーウェイのプリンセス

中国の情報通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO、当時)は2018年12月、出張で香港からメキシコに向かう途中、乗り継ぎ地のカナダ・バンクーバーで身柄を拘束された。

米国の対イラン制裁を逃れるため、ウソの説明をしたとして、米国で詐欺罪に問われ、カナダに逮捕要請が行われていたのだった。カナダ当局はその要請に基づき、空港で身柄を確保。その後、米国で正式に起訴された。

カナダの裁判所で、米国への身柄引き渡しの可否をめぐる審理が延々と続いていたが、2021年9月、米司法省との間で、一部の不正行為を認める見返りに、将来の起訴取り消しが確約される「訴追猶予合意(DPA)」で合意したと発表された。孟氏はその日のうちに中国に向け出国した。

カナダでは逮捕後、保釈されたものの、同国内の住居で24時間監視下に置かれた。出廷のたびごとに、足首にGPS(全地球測位システム)端末が付けられている姿をメディアが報じた。ファーウェイの創業者の娘である孟氏は、「ファーウェイのプリンセス」とも呼ばれていただけに、約1000日にわたるカナダでの保釈状態は屈辱的な処遇だった。

釈放は、孟氏の逮捕直後に中国で拘束されたカナダ人2人の解放との交換の形で行われた。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、「中国人質外交の勝利」と伝えた。政治的解決にほかならず、普通のビジネスマンには無縁な事例と言える。

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