それでも司法取引を選択するのはなぜか
米連邦地裁が扱う刑事事件では、2024年3月までの1年間に被疑者・被告人7万1736人中、6万4220人が司法取引に応じて有罪を認めた。率にして89.5%(表③)に達する。
裁判にまで進むのは1768人、率にして2.4%(表④+⑥)に過ぎない。
米連邦地裁で処理された刑事事件(2023/4/1~2024/3/31)
被疑者・被告人 合計① | 有 罪 | 無 罪 | ||||||
小計 ② | 有罪答弁 ③ | 有罪判決④ | 小計 | 起訴取り消し⑤ | 無罪判決⑥ | |||
裁判官 裁判 | 陪審裁判 | 裁判官 裁判 | 陪審裁判 | |||||
71,736人 | 65,754人 | 64,220人 | 166人 | 1,368人 | 5,982人 | 5,748人 | 76人 | 158人 |
100% | 89.5% | 2.1% | 8.0% | 0.3% |
全体の有罪率(②÷①) | 91.7% |
起訴取り消し除く有罪率{②÷(①-⑤)} | 99.6% |
有罪中の答弁比率(③÷②) | 97.7% |
公判での有罪率{④÷(④+⑥)} | 86.8% |
公判での決着率{(④+⑥)÷(②+⑥)} | 2.7% |
宇川春彦「米国における司法取引」(下記URL参照)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcl/50/3/50_357/_pdf/-char/ja
司法取引を拒否し、裁判を選べば、結果的に「相場」よりも重い処罰が科される可能性が高くなるとされる。これは「トライアル・ペナルティー(トライアル=裁判を受けることに伴う不利益)」と呼ばれる。
実際、裁判で無罪を勝ち取るのは至難の業で、有罪率は86.8%(表「公判での有罪率」)だ。
合衆国憲法修正第6条で、刑事被告人は陪審裁判を受ける権利を保障されているにもかかわらず、裁判にまで進む事例が極めて限られていることをめぐっては、米国内で問題になっている。裁判で無罪を勝ち取れる可能性がわずかなりとも見込めるにもかかわらず、被疑者・被告人は司法取引を半ば強制されているのではないかと、批判されているのだ。
ニューヨーク南部地区連邦地裁の現役判事、ジェド・レイコフ氏は著書『なぜ、無実の人が罪を認め、犯罪者が罰を免れるのか 壊れたアメリカの法制度』(中央公論社)の中で、「検察官の独断による司法取引制度は、司法取引を結ぶよう過度の圧力を生み出すことで、実際には行っていない犯罪をかなりの数の被告人に認めさせたように思われる」と指摘。司法取引が冤罪の温床になっていると批判している。
自動車部品カルテル事件でも、公判まで進んだ事例はほぼない。司法取引か穴熊かの事実上、2択だ。
事件で摘発された個人のうち半数までが司法取引を選んだ主な要因としては、①米国で処罰を受けた後のキャリアの継続、②弁護士費用負担、③米国で収監中の国内留守宅手当て、などを会社側にある程度保証してもらえることが挙げられる。
会社の支援がなく、個人が単独で闘う場合は事情が異なる。勝算の薄い米国での裁判を選んだ場合のリスクはあまりに大き過ぎる。トライアル・ペナルティーが頭をよぎる。そして、日本にとどまるのがほぼ唯一、現実的な選択肢となるのである。
(#3に続く)