「日本ガバナンス研究学会」企業献金から大学・兵庫県知事問題までを徹底討論《年次大会記後編》
「非営利組織」におけるガバナンスの課題も俎上に
大会の最後に行われた統一論題は「信頼向上に向けたガバナンスの確立~多様化する組織と不正の視点から~」。このテーマに関する報告および討論では、数々の不正調査を手掛け、ブログ等でコーポレートガバナンスについても積極的に発信する山口利昭弁護士が、非営利組織のガバナンスについて説明した。
山口利昭弁護士ブログ「ビジネス法務の部屋」
http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/
山口弁護士は、東京女子医科大学の同窓会組織をめぐる不正支出事件や、兵庫県知事のパワハラ告発問題といったケースを取り上げ、「(非営利組織では組織の目的を遂げるという名目で)トップに権限が集中する傾向がある」と分析し、「民間企業と異なり、外部からのモニタリングが弱く、透明性を向上させるインセンティブが働きにくい」との特徴を指摘した。
さらに、上場企業の第三者委員会委員を数多く務めた経験から、「メディアは不祥事が起きたことよりも、『なぜ気が付かなかったのか?』『なぜそれを隠したのか?』といった二次的な不祥事のほうに関心を持つ」とマスコミの不祥事をめぐる報道姿勢の在り方を解説し、「ガバナンス研究学会として頑張らないといけない時期に来ている」と、自らが理事を務める学会にエールを送った。
このほか統一論壇ではあずさ監査法人の公認会計士、紫垣昌利氏が「ガバナンスの高度化に向けたデータ利活用とのその信頼性の確保」のテーマで報告するなど、計4人が登壇。
会長の久保利氏もあいさつの中で、この「人権とガバナンス」をテーマにした研究部会の報告に触れ、「企業や組織が最低限、身に着けるべきことが『人権』で、そんな時代が来ている。だからこそ、この学会が活躍し、日本のガバナンス研究の中核を占めてほしい」と呼びかけた。
今回の年次大会ではこのほか、金融庁企業開示課の廣島直樹氏が特別講演として、金融庁によるコーポレートガバナンス改革について1時間にわたって解説。資本コストやサステナビリティについて各企業の情報開示の状況を課題とともに紹介した。
講演の冒頭、廣島氏はコーポレートガバナンスの定義に言及。東京都立大学経営経済学部の松田千恵子教授の解説を引用しながら、「ガバメント」と「ガバナンス」の言葉の違いを説明。ガバメントは、王権や政府などのトップが決定・命令する上意下達の意味がある一方、ガバナンスという言葉は合意形成を行うという意味合いもあって、「統治」よりも「自治」に近くて「協治」とも訳されるという。
前編の通り、コーポレートガバナンスの第一人者として知られる久保利会長は、かねて「コーポレートガバナンスをマスコミは『企業統治』と訳しているが、これは間違いだ」と指摘してきた。企業統治という日本語訳では、トップが会社や組織を支配するかのように受け止められていると批判し、「むしろ、経営者をいかに統治するかというのがコーポレートガバナンスだ」と喝破する。
久保利会長は2023年10月、24年3月と2度にわたって「会員増強推進記念シンポジウム」を開くなど、とかく研究者に限られがちな学会の門戸を広げようと、積極的に後押ししている。今回の年次大会も、人権や多様性、そして社会に対する責任など、企業に求められたさまざまなテーマが重なり合って広がっていく可能性を感じさせる内容となった。次回のシンポジウム、そして年次大会が期待される。
(了)
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