MUアセットで新たに加わった「政策保有株」基準
他の反対理由のひとつである「政策保有株式」は、日本の株式持ち合い解消の流れを受けたものだ。かつては系列の関係がモノを言い、外資や同業他社からの買収防衛策としても有効とされてきた株式持ち合い。しかし、この日本特有のガバナンスシステムへの見方は一変した。
経済産業省は2023年8月、上場企業のM&A(合併・買収)に臨む企業がとるべき行動のガイドライン「企業買収における行動指針」を策定。「敵対的買収」という言葉は「同意なき買収」と言い換えられ、“買収防衛=善”というわが国旧来の価値観を払拭し、投資による企業の成長促進へと舵を切った。つまり「モノ言う株主」にお墨付きが与えられたに等しい。
また、経産省は今年6月、「持続的な企業価値向上に関する懇談会 座長としての中間報告」を公表。2014年の「伊藤レポート」(「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト最終報告書、座長:伊藤邦雄一橋大学教授=当時)の提言・推奨課題の10年間の進捗や不十分な取組の要因を分析し、日本企業が社外取締役の増加や資本効率の向上などで変革を遂げたが、企業価値向上は一部にとどまるとの認識を示し、さらなる企業価値向上を目指すべきとの方針を示した。こうした投資をめぐる環境変化が政策保有株式を理由とした反対につながっている。
【経済産業省】「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト最終報告書
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/pdf/itoreport.pdf
このほかの反対理由のうち、「業績低迷」はある意味、株主として当然すぎるものだ。東証プライム上場で中国電力系の電気工事会社、中電工の迫谷章会長は2024年の取締役賛成率が82%だった。前年より6ポイント落とした。24年3月期は最終黒字に転換したものの、21年3月期を下回る水準にとどまる。
「不祥事に対する有責」で反対されたのは、東証プライム上場の建設会社、ヤマウラだ。同社の経理担当の元社員とその息子が約10年間で26億円余を横領した疑いがあり、業務上横領容疑で逮捕された。2024年3月期の最終利益約30億円に匹敵する巨額の不正を長期間にわたって見逃していたことが反対理由となったが 、山浦正貴社長の賛成率は90.9%と、前回より0.6ポイント減にとどまった 。
「過剰金融資産」「多様性」を 理由に反対されたのは、東証プライム上場の食品製造、アリアケジャパン。1株当たり純資産は3741円で毎年増え続けている。白川直樹社長の賛成率は60.57%で、前年より1.55ポイント下落した。なお、PBR(株価純資産倍率)は1倍を上回っている。
「出席率の低さ」を理由に反対されたのは、東証スタンダード上場の建設業、イチケンの社外取締役である伊地知俊人氏だ。取締役会12回のうち7回、経営会議11回のうち8回、指名・報酬委員会の3回のうち1回にしか出席しなかった。結果、賛成率は77.81%だった。
ただ、MUアセットが議案に反対した企業のうち、前年より賛成率が逆に高まったところも少なくなく、アセットマネジメント会社の議決権行使をめぐる行動行動が他の一般株主と連動するとは言えない面もある。次回#2は4000~6000番台の企業を分析する。
ともかくも、各社の詳細は次ページからの一覧表をご覧いただきたい。
(#2、4000~6000番台企業リストに続く)