【フィリピン弁護士特別寄稿】フィリピン・納税簡易化(EOPT)法の主な規定

フェリックス・シー(Felix Sy):弁護士(フィリピン在住)
ジョナス・ジョシュ・C・カボチャン(Jonas Josh C. Cabochan):弁護士(フィリピン在住)

フィリピンの現地弁護士からのレポート第一弾は、フィリピンの税務に関する法律である「納税簡易化法(Ease of Paying Taxes Act、以下「EOPT法」)」をテーマにお送りします。

2024年1月に施行されたEOPT法は、税務手続の簡素化と納税者の利便性向上を目的とした包括的な法改正です。すでに施行から1年あまりが経過していますが、電子申告の選択肢の拡大、VAT制度の見直し、帳簿の保存期間の短縮など、企業の実務に関わる重要な変更が多く含まれています。対応済みの企業においても、実務に影響するポイントが見落とされていないか、今一度チェックしておきたいところです

本レポートでは、EOPT法の主要な改正点を、改正前と改正後の内容を対比できる表形式で整理していますので、主な改正点の把握や見直しの参考にご活用ください。

2024年1月5日、フィリピン共和国大統領フェルディナンド・マルコス・ジュニアは、共和国法第11976号、すなわち「納税簡易化法」(EOPT法)に署名しました。EOPT法は2024年1月7日に官報にて公布され、2024年1月22日に施行。本法は、フィリピン国家内国歳入法典(「NIRC」)の改正となり、「納税者の権利および福祉の保護と保障」、「税務行政の近代化および改善」、「課税制度の更新」、ならびに「最良慣行(ベストプラクティス)の採用」を目的とします。

主な改正点
(スマホ:表→横にスクロール)

  改正前 EOPT法による改正
納税者区分
(第21条)
納税者は以下の通り総売上高に基づき分類される
総売上高(フィリピン・ペソ)
零細:300万未満
小規模:300万以上~2000万未満
中規模:2000万以上~10億未満
大規模:10億超
税務申告
および納付
税務申告および税金の納付は、主たる事務所の所在地を管轄する市または町の公認代理銀行、歳入地区責任者、または正式に認可された市町村の会計官を通じて手動で行う。
誤った場所での申告は、基礎税額の25%の加算税の対象となる。
電子的または手動によって、いずれの公認代理銀行または認定された税務ソフトウェア提供者を通じて申告および納付が可能。
費用の控除 総所得からの控除は、そこから控除し源泉徴収されるべき税がフィリピン内国歳入庁(BIR)に納付されたことが証明される場合にのみ認められる。 【削除された規定】
源泉徴収の時期
(第58条)
  所得が支払可能となった時点で、税を控除し源泉徴収する義務が発生する。
付加価値税(VAT)の
課税標準
(第108条)
付加価値税(VAT)は、販売、交換、または物品の譲渡における総販売価格または金銭評価額の12%。 VATは総売上高の12%。
物品の販売、交換の場合:「総売上高」とは、購入者が物品の対価として支払う義務を負う金額の全額をいう。
サービスの提供の場合:「総売上高」とは、契約金額、サービス料、またはこれに相当する額を含み、提供されるサービスに付随して供給される資材の料金も含む。ただし、第三者への支払いが予定されている金額や、売主が利益を得ない立替金は除外される。
未回収売掛金に係る売上VAT控除
(第110条)
  売主は、支払期限経過後の未回収売掛金に係る売上VATを、翌四半期の売上VATから控除できる。ただし、当該取引に関してVATを完全に納付しており、かつ未回収分のVATを第34条(E)項に基づき控除として申告していないことが条件。
未回収債権が回収された場合には、その売上VATを回収期間の売上VATに加算しなければならない。
VATの発行書類
(第113条)
商品または物件の販売は請求書、サービスの販売または物件のリースは正式な領収書によって証明。 請求書により、商品、サービス、物件の使用またはリースのいずれの取引も証明できる。
VAT免税取引
(第113条)
総年売上高または収入が300万ペソを超えない場合、VATの納税義務を免除。 この300万ペソの基準額は、フィリピン統計庁(PSA)が公表する消費者物価指数を用いて、3年ごとにその現在価値に調整されなければならない。
その他のパーセンテージ税の課税標準 VAT免税者、国内運送業者、駐車場管理業者、国際運送業者、フランチャイズ業者に対するパーセンテージ税は、総収入に基づき算出される。
フィリピンから発信される各種通信(メッセージや通話など)に対するパーセンテージ税は、サービスの対価として支払われた金額に基づいて算出される。
VAT免税者、国内運送業者、駐車場管理業者、国際運送業者、フランチャイズ業者に対するパーセンテージ税は、総売上高に基づいて算出される。
フィリピンから発信される各種通信(メッセージや通話など)に対するパーセンテージ税は、請求された金額に基づいて算出される。
誤納税・加算金の還付
(第204条、第209条)
BIRは、誤って納付された税または加算金の還付請求について、提出日から90日以内に処理する。 BIRは、誤って納付された税または加算金の還付請求について、提出日から180日以内に処理する。
帳簿の保存
(第235条)
10年間の保存義務がある(BIR歳入規則第17-13号)。 申告期限の翌日、または申告が期限後に行われた場合はその提出日から起算して5年間の保存義務がある。対象は、帳簿に最後の記載がなされた課税年度に係るもの。
年次登録料の納付義務
(第236条)
納税者は、販売取引が行われる各事務所または営業所ごとに年間500ペソの登録料の納付義務がある。 【削除された規定】
請求書の発行義務(第237条) 取引金額が100ペソ以上の場合、請求書の発行が必要 取引金額が500ペソ以上の場合に、請求書の発行が義務付けられる。
500ペソ未満の複数の取引については、その合計額が500ペソ以上となる場合、当日の終わりにまとめて一枚の請求書を発行することができる。
VAT登録納税者は、金額にかかわらず請求書を発行しなければならない。
この金額基準は、フィリピン統計庁が公表する消費者物価指数を基に3年ごとに調整される。
BIRのサービスのデジタル化
(第43条、第44条、第245条)
  基本的な税務サービスは、BIRによる統合型自動化システムの導入を通じて利用できるものとされる。
申請書等は、電子的または手動によりBIRへ提出することができる。
BIRは、電子的な手段により通達を公布することができる(例:官報、BIRウェブサイト等)。

本レポートは、筆者が執筆し、所属事務所が刊行したニュースレターに掲載された内容をもとにしています。