【ブラジル弁護士特別寄稿】ブラジルおよびその他の地域における児童労働対策と企業方針への組み込み

レオポルド・パゴット(Leopold Pagotto):弁護士(ブラジル在住)
アナ・エリザ・ベルトリン・ダ・シウバ(Ana Elisa Bertolin da Silva):弁護士(ブラジル在住)

コンプライアンスの適正実践(ベストプラクティス)や企業の社会的責任(CSR)において、ブラジル当局は、「児童労働の撲滅」を重要視しています。このレポートでは、同地および南米における児童労働対策の動向をお伝えします。ブラジルに留まらず、他国で事業展開する日本の多国籍企業にとって、おさえておきたいトピックです。

ブラジルの法律は児童労働を明確かつ厳格に禁止しています。1988年連邦憲法第7条第XXXIII項では、16歳未満の就労を禁止し、例外として14歳以上の徒弟労働のみを認めています。さらに、労働法典(CLT)はこの年齢制限を強化し、徒弟労働者には義務教育*の履行と(高校を修了していない場合)定期的な通学を義務付けています。(*注:ブラジルの義務教育は、日本の高校3年相当までの14年間)

児童労働について様々な国際条約がある中、ブラジルもまた、そのような国際条約の締約国であり、国際労働機関(ILO: International Labour Organization)が採択した「就業が認められる最低年齢に関する条約」(第138号、1973年)および「最悪の形態の児童労働の禁止および撤廃のための即時行動に関する条約」(第182号、1999年)を批准しています。

これらの規範に違反した企業は、行政・民事・刑事上の制裁の対象となります。主な制裁措置は以下の通りです:

  • 労働雇用省労働監督局による行政罰金の課徴
  • 労働検察庁(MPT)による民事訴訟:集団的道徳的損害*の賠償や、有害な労働慣行の停止に関する合意に至ることもある(*注:「集団的道徳的損害」の概念は、ブラジルを含むラテンアメリカ諸国で広く認められ、労働法や消費者保護法の枠組みで適用)
  • より深刻な場合、特に奴隷制に類似した状況においては、刑事責任も問われる

さらに、法的制裁にとどまらず、企業が児童労働に関与した場合、深刻なレピュテーション(評判)リスクや商業的リスクにも直面します。具体的には、金融機関からの資金調達の制限、グローバルサプライチェーンからの排除、さらにはブラジル労働雇用省が公表する「ダーティーリスト」*(Lista Suja)への登録などが挙げられます。(*注:「ダーティーリスト」は、強制労働が確認された企業を公表するリストであり、掲載企業は公共契約の制限や銀行融資の停止などの影響を受ける。近年、グローバル企業がサプライヤー評価の指標として活用するケースも増えている)