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部下から「ハラスメント相談」を受けたとき、やっていいいこと・悪いこと【野村彩弁護士の「ハラスメント」対策講座#6】

野村 彩:弁護士(和田倉門法律事務所)、公認不正検査士(CFE)

なぜマネジメント層が“対応ノウハウ”を知る必要があるのか

前回#5はパワハラの「あるある事例」をご紹介した。本連載をここまでお読みいただいた方であれば、自分がハラスメントをすることのリスクの大きさは、すでに十分にご承知かと思う。そこで今回は、自分ではなく部下や他の管理職がハラスメントを起こしてしまい、それについて相談を受けたときの対応についてご説明する。

そもそも、ハラスメント相談への対応は、実はけっこう奥が深い。

特に“初動”は重要で、最初に相談を受けた人の対応ひとつで、その後のトラブルが大きくなるのか、小さくなるのかが変わってくることがある。当初は相談者もそこまで感情的ではなかったのに、相談を受けた管理職の対応がマズくてトラブルに発展してしまう、ということはよくある。

逆に、当初は相談者が訴訟も辞さないような強硬的な態度だったのに、相談を受けた人の対応が素晴らしく、丸く収まってしまったということも、これまたあったりする。当然、常にセオリー通りに進むものではないが、今回は「こうすると揉めがち」という視点も入れつつ、相談対応のノウハウについてお伝えしたい。
 
ここで、「いやいや、うちにはハラスメント相談窓口がありますからね。私のところに相談が来ても『窓口に相談して』と伝えるだけですよ」と思われる方もいらっしゃるかもしれない。

確かに相談窓口は、厚生労働省が各種ハラスメント指針で事業主に設置を求めているものであり、適切に対応されている企業においてはすでに相談窓口や担当者が決められていることだろう。

ただ、考えていただきたい。相談者の気持ちになってみると、ハラスメントの被害者は常に困惑して、迷っている。

「こんなことを相談したら、かえって会社に迷惑になるんじゃないだろうか」
「大袈裟なことにはしたくない」
「でも、辛い」
「でも、相談したことで報復を受けるかも」
「どうしよう……」

と、悩みに悩んで、そしてついに「この人なら信頼できる!」と、意を決してあなたに相談をしにきているのである。そんなときに「あのさぁ、ウチに相談窓口があるの知ってるよね? そっちに相談したらどう?」と言われたら、どう思うだろうか。相談者としては「この人なら、と思ったのに……」と、裏切られた気持ちとなり、結果、「たらい回しにされた」と主張するのである。

もちろん、「相談窓口に行ってみたら?」という回答は、別に違法でもなんでもない。窓口の利用を勧めること自体はまったく問題がない。むしろ、専門性を持っている窓口担当者のほうが、適切に対応できることが多いのも事実であろう。しかしながら先ほどの観点からすると、上の立場に立つ者である以上は、いったんは自分で受け止めざるを得ない、という場面が生じ得るのもまた事実なのである。