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パワハラあるある「危険リスト」ますます増加中【野村彩弁護士の「ハラスメント」対策講座#5】

某知事で注目の新型パワハラ「フキハラ」にもご用心

最近では「フキハラ」もアツい。上司が「話しかけるなオーラ」を纏っている、「はあぁーあ……」とこれ見よがしにため息をつく、何かよく分からないけど席で書類を見ながら舌打ちをしている、などの「不機嫌ハラスメント」である。

これらの行為が直ちにパワハラになるとは限らないが、実は「これはフキハラではないか?」といった内部通報が増えている。

また、某県知事の例のパワハラ事件では、「文書問題に関する第三者委員会報告書」において、当該知事が、部下が持ってきたキャンペーン用のうちわに自身の顔写真がプリントされていないのを見て舌打ちし、大きなため息をついたことが問題とされていた。

第三者委員会はこの行為について、「無用に相手を威圧し、萎縮効果を生じさせる」ものであって、「職員の不満と士気の低下、本来の業務以外への気遣いを必要ならしめて就業環境を悪化させたものであり、パワハラに当たると判断する」ものとした*3

*3 https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk19/documents/honnpenn2.pdf

このフキハラのように、一定の言動が多くの人に認知されて社会問題化すると、これまでは違法とされなかったことが違法になる、ということはよくある。注目されている問題行動はなかなかにリスクが高いのである。

なお、不機嫌が高じて、部下が話しかけてきたのに無視をする、挨拶をしない、といったレベルまで到達してしまうと、指針の定めるパワハラ6類型のうち「人間関係からの切り離し」パターンとして、ガチのパワハラになるので注意したい。

「女性の感性」「職場のお母さん」も危ない

差別発言はパワハラである。人種差別、学歴差別、出身地差別、年齢差別はいずれも許されない。そして男女差別発言は、許されないものであるとともに、炎上もしやすい分野である。「ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)」と言われることもある。

「やっぱり女性だとお客さんに舐められるよね。男だったらこうはいかないよ」なんて発言はもちろんNGであるが、例えば管理職に昇進した女性に対して「女性としての感性を活かしてほしい」などと述べることも気をつけたい。

男性が管理職になっても男性としての感性を活かせとは言われないのに、なぜ女性だけ性別特有の感性を活かさなくてはならないのだろうか。そもそも「女性としての感性」っていったい何なのか。女性なら男性にはない細やかな気遣いができる、といったことだろうか。だとしたら、それは女性だけでなく男性にも失礼である。

「職場のお母さん的存在」なんていう表現も聞くことがある。なんで職場でまでお母さんやってあげなきゃいかんのじゃ!? という話である。この言い方には「お母さんなんだから、業務外の細かいこともやってよね」というニュアンスが含まれる。

なお、業務とは直接には関係のない(だが時間は取られる)細々したタスク、例えば退職する人へのプレゼント選びや送別会の手配、インターンのお世話などを「NPT(non-promotable tasks)」、即ち「出世と関係ない雑務」と呼び、こういった「office housework」が女性に押し付けられがちではないかという問題も昨今では生じている*4

*4 https://www.ft.com/content/03117e7a-3c85-4af4-8c31-f34428af32c4

以上、昨今のパワハラあるあるをご紹介させていただいた。 とはいえ、本媒体の読者たる紳士淑女のみなさまであれば、「まあ、自分ではやらないかな」と感じられた方も多かったかもしれない。そこで次回は、そんな方こそ直面するかもしれない「部下からパワハラ被害の相談を受けたとき」のハウツーについて解説したい。

(毎月1回連載、次回6月25日頃配信)