野村 彩:弁護士(和田倉門法律事務所)、公認不正検査士(CFE)
業務外の飲み会は“強制”!?「ポスト・フジテレビ時代」の到来
今月3月末には第三者委員会の報告書が公開される予定の、フジテレビの例の会食事件。他の大手テレビ局は、これを「対岸の火事」とはせず、各社、社内調査を実施したと報じられている。調査の結果「性的接触を伴う会食」はなかった、という公表などがされたが、安易な結論付けとならないよう、留意が必要である。
さて、本件で問題になっているような、取引先の接待要員として女性従業員を飲み会に呼ぶという行為は、法的にはどう評価されるのだろうか。「性的接触を伴う」ものでなければ許されるのだろうか。
確かに、取引先との会食の際に、女性の従業員に参加を呼びかけること自体が問題となるものではない。
しかしながら、実態として、従業員に対し、「性別」を強調した言動を要求する場合はセクハラとなる。もちろん、はっきりと「キミは接待要員だから」と述べることは論外であるが、例えば「キミは先方の部長の隣に座って」と指示することは危うい。「お酌をして」も同様である。
「いやいや、女性だからお酌をさせたわけじゃないですよ。クライアントに対する礼儀として、あくまで当社の社員としてお酌をするよう指示しただけで……(汗)」ということもあるだろうが、これが訴訟になったときに、裁判所がそんな“言い訳”を信じてくれるとは限らない。
また、そもそも接待要員であろうとなかろうと、どのような性質の会合であっても、出席を「強要」することはパワハラとなる可能性がある。
飲み会を含めた業務外の活動への参加呼びかけは、あくまで任意、が基本中の基本である。この場合、明確に言葉で強制していなくとも、「立場上断れなかった」ような場合は“事実上の強制”と認定されることもある。
いずれにせよ、「取引先との会食に女性従業員を連れて行く」ことのハードルは、フジテレビ事件を受けて格段に上がったと言っていい。どこかの社長を真似て「人脈をつくる良い機会になるよ」などと述べたら逆効果となるおそれすらある。もはや現代は「ポスト・フジテレビ時代」となったのである。