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【上場企業「適時開示」チェック#2】ユニゾHD「破綻処理」で一番得をするのは誰か

上場企業の適時開示情報を隔週でチェックする本連載。2回目は敵対的買収から逃れるために非公開化を選んだ、かつての超優良上場会社、ユニゾホールディングス(HD)の民事再生手続きに至るプロセスを見てみたい。

4月26日、ユニゾHDが民事再生手続きの開始を申し立てた。申し立て翌日の4月27日には、同社に融資をしていた上場地銀8行が債権の取り立て不能の適時開示を行っている。直接の申立理由は、5月26日に迫っていた100億円の社債償還のための資金を手当てできなかったためである。予めスポンサーを選定して申し立てる、いわゆるプレパッケージ型の再生で、投資ファンドの日本産業推進機構グループがスポンサーに就任することが決まっている。

ユニゾHDは旧社名を常和ホールディングスという。旧日本興業銀行(現みずほ銀行)系の不動産会社で、好立地に建つホテルとオフィスビル経営が事業の二本柱だった。旧興銀系だから、もともとはみずほ銀行がメインバンクだったが、民事再生申立時点ではみずほは逃げ切ったあとだったので、地銀の“逃げ遅れ”を揶揄する報道が目立っていた。

「みずほがメインだから大丈夫だと思った」。そんな間抜けな地銀担当者のコメントを載せている報道もあるのだが、どうにも釈然としない。果たして、地銀は本当にそんなに“間抜け”だったのか。しばしば見かける紋切り型の報道の臭いがする。

ところで、筆者は5月9日に開催された債権者説明会の資料を入手した。それによれば、主要3社(ユニゾHD、ユニゾホテル、ユニゾ不動産)の今年2023年3月末時点の金融機関借入残高の合計は713億円。これ以外に社債が610億円あるので、有利子負債は合計1323億円に上る。ただし、報道されている1277億円という負債総額はユニゾHD単体のものだが、3社の負債の部を単純に合計すると1943億円になる。この資料には3社連結のバランスシートは載っていないので、内部取引を相殺したらどうなるのかは、5月9日の債権者説明会資料ではわからない。

注目に値するのは3社の純資産の部である。2023年3月末時点でユニゾHDは1429億円の資産超過。ユニゾホテルも115億円の資産超過。ユニゾ不動産も431億円の資産超過となっている。民事再生は債務超過でなくても、その可能性があれば申し立てができる。つまり、全保有資産の換金で借金が完済できないのであれば、申し立てが可能なわけだ。

釈然としないのは、1429億円もの資産超過なのになぜ100億円の社債償還ができなかったのか、という点。もちろん資金繰りが破綻すれば企業は黒字でも倒産するのだが、物件売却による償還期日の延長という手段がとられなかったことが不思議なのである。

実質無借金、不動産含み益1364億円のユニゾHDが「4年で破綻」の理由

ユニゾHDは2019年7月にエイチ・アイ・エス(HIS)からいきなり株式公開買い付け(TOB)を仕掛けられ、対抗するために頼ったホワイトナイトが米国系ファンドのフォートレスだった。フォートレスの登場でHISは撃退できたものの、当時のユニゾ経営陣はフォートレスとも仲違いしてしまう。従業員の雇用を守る約束をしてくれなかったから、フォートレスは保有物件をバラ売りして会社を解体してしまう可能性があるから……というのが両者の決裂の理由で、最終的にとった奇策がEBO(従業員による買収)だった。

具体的には、従業員が出資して設立したチトセア合同会社が米系ファンドのローンスターから借りた2000億円でスクイーズアウト(キャッシュアウト)するというもの。チトセアが実施したTOBは8割強の賛同を得て成立。2020年6月にユニゾHDは上場廃止になった。

実はこのユニゾ、上場廃止後も引き続き有価証券報告書提出義務を負っていた。なぜか。株主はチトセア1社だが、無担保社債の債権者が一定数残っていたからだ。非上場なので四半期ごとの開示はしていないが、上場廃止後も半期報告書と有価証券報告書は提出していた。そこで、上場廃止前から2023年3月期半期報告書(2022年9月末時点)までの開示から、この会社の資産と負債の状況を集計したものが下のグラフである。2023年3月末時点の数値だけは5月9日の債権者説明会の資料記載の3社の数値を単純に合計して使った。

一連の攻防が始まる直前の2019年3月期末時点で、この会社は連結ベースで1131億円もの純資産があり、現預金、投資有価証券、有形固定資産の簿価合計が6686億円であるのに対し、有利子負債は5322億円。広い意味で言えば、実質無借金企業だった。そのうえ、賃貸資産の含み益が1364億円もあった。 

ところが、TOBのためにチトセアが背負った2000億円の借金を肩代わりしために、主要資産の簿価の合計金額が有利子負債残高を下回るように。この借金肩代わりのためにホテルやオフィスビルを次々と売却。2019年9月末時点で4753億円あった有形固定資産は、1年後の2020年9月末時点では半分以下の1826億円にまで減ってしまった。

旧経営陣の責任追及と「破綻前6カ月」の謎

ローンスターへの返済原資確保のため、保有物件を大量に売却するシナリオは、TOB開始時点で公表されていた。その際、体の良い「クラウンジュエル」、つまり敵対的買収への対抗策として、買収の標的にされた企業の優良資産を売却することで、その会社の魅力を低下させる戦略ではないか――という批判の声が出ていた。

実際、5月9日の債権者説明会では、EBOという手段を選択するにあたり、旧経営陣の関与の度合いも調査する、と申立代理人は言っている。しかし、これが実際に「旧経営陣への損害賠償請求」につながるのかというと、甚だ疑問だ。というのも、 TOB実施当時、EBOを積極的に推進した興銀出身のトップが、幹部従業員に対し「自分についてくるかどうか」と踏み絵を踏ませたとの報道があったのは確かだが、結局のところ、EBOに手を挙げた従業員が、自分の意思でEBOに踏み切ったのであれば、旧経営陣の責任をどこまで追及できるのか、ということになるからだ。

そもそも、メディアから“間抜け扱い”を受けた債権者である地銀各行に、どれだけ回収不能が出るのかはフタを開けてみなければわからない。ごく少額の債権額の金融機関を除けば、ほぼ全て担保権が設定されており、民事再生は会社更生とは異なり、担保権の実行を制限されることがない。何しろ2022年3月末時点ですら簿価2000億円の不動産に434億円もの含み益があったのだ。民事再生手続きに入ったことで、債権者はかえって堂々と物件の処分ができるようになったとも言える。

民事再生によって無担保社債の債権者は丸損だとしても、その無担保社債の債権者が貸し出しをしている金融機関と重なっていたらどうか。あるいは、現時点の社債の債権者も転売によって社債を取得しているのであれば、取得価格は券面金額よりもかなり安い可能性がある。

さらに61億円の貸出債権を持つ筆頭債権者の「城ヶ島合同会社」は、ドイツ証券系のサービサー会社である。61億円の債権をいつ、いくらで買ったのか。第2位債権者の「アビリオ債権回収」もサービサーで、こちらは三井住友銀行系。50億円の債権を持つが、取得価格はこの額よりもずっと安いだろう。

注目すべきは、2022年9月末時点で1654億円もあった借り入れが、713億円へと941億円しか減っていない一方で、有形固定資産は2045億円から614億円へと1431億円も減っている点だ。この半年の間で、ユニゾHDに一体何があったのか――。担保権者が権利行使をした後、この会社には一体何が残り、今回の破綻処理で誰が一番得をするのか、解明が待たれる。

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