アクティビストとの対決、同意なきTOB……経営者に求められる“勇気”
――今後のM&A(合併・買収)のあり方をどう予測しますか。
第3章《企業支配権市場における上場企業M&A》では、この時代における上場企業M&Aの潮流について書きました。
前述の経産省の指針の前後で、上場企業のM&Aのあり様は様変わりしたと言えます。買収提案を内々に握り潰すといったことは、もはや許されなくなり、相応のプレミアムが付された提案に反対する場合、市場に対して十分な説明が求められるようになりました。
同時に、"大義”を伴ったものであれば、同意なき買収であっても躊躇すべきでないという意識も広まっています。とりわけ、指針策定に前後して公表されたニデック(旧日本電産)によるTAKISAWAへの「同意なきTOB(株式公開買い付け)」が、日本における新たな時代の上場企業買収の地平を切り開くことになりました。
そして、ひとたび非公開化を決断すれば、「価格」は非常に重要な要素となり、公正性・客観性を担保したプロセス設計が求められます。公正性に疑義を向けられれば、アクティビストが株式を買い上がり、TOB価格の引き上げなど、容赦ない要求に晒されることにもなる。
また、単に買収に”待った”をかけるだけでなく、アクティビスト自らが買収提案者となるケースも増える可能性があります。
22年にオアシスがTOBにより株式の64%を取得したレーサムは、上場を維持したまま株価を上昇させ、24年にはオアシスによるTOBの3倍以上の価格でヒューリックがTOBを実施し、非公開化しました。アクティビストと言えども、資金力とトラックレコード(過去の実績)を有する主体であれば「真摯な買収提案」に該当する可能性は十分あるのです。
さらに、アクティビストとプライベート・エクイティ(PE)ファンドや事業会社が暗黙下で連携することも増えています。
アクティビストがPEファンドから投資先企業の買収提案を自発的に募るケースや、投資先の事前同意なく持ち分を事業会社へと売却するケース、潜在的買収者の存在を念頭としたキャンペーンを展開するケースなどがそうです。
上場企業は、買う側・買われる側いずれにおいても、こうした環境変化を念頭に置いた対応を行うことが求められるのです。
――上場企業の企業支配権市場との向き合い方はどうなるのでしょうか。

第4章と第5章では、企業支配権市場に向き合う上場企業の実践的対処法と、日本の企業支配権市場の将来展望について取り上げました。
特に第4章では、企業支配権市場の戦略アドバイザリーとして、株主価値最大化に向けた経営戦略策定(SA)やプロキシーファイト(PA)、戦略的選択肢の実行(FA)の支援など、幅広いサービスラインナップを有する当社が培った知見をもとに、企業価値向上プランの策定・開示やプロキシーファイトの戦い方、買収提案を受けた時の対応など、複数のシチュエーションに合わせたポイントを詳述しています。
そもそも、こうした実践的なハウツーの土台となる”心構え”も重要です。
企業価値最大化のためであれば、経営者は聖域なき事業変革を断行し、時にはアクティビストと対峙することも辞さない、大きく強い勇気を持つ必要があります。ベネフィット・ワンに対抗提案を行った第一生命ホールディングスや、TAKISAWAへの同意なき買収に踏み切ったニデックのように、企業価値向上に資するものであれば、企業支配権市場を武器として能動的に活用し「仕掛ける」側に回るという“大きな決断”が求められる時もあるということです。
本書が、上場企業が企業支配権市場に立ち向かう経営者の方々に”勇気”を与える一助となることを願っています。
(取材・構成=編集部)