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コスモHDvs.旧村上ファンド「買収防衛策」導入決議の“奇策”に疑問符【株主総会2023】

石油元売り大手のコスモ石油を傘下に持つコスモエネルギーホールディングス(HD)の定時株主総会が6月22日に開催される。同社の成長戦略を巡っては、投資家の村上世彰氏が関与する旧村上ファンド系の投資会社「シティインデックスイレブンス」(東京都渋谷区)との対立が激化。再生可能エネルギー事業の分離・上場などを要求するアクティビスト(物言う株主)にどう対峙するのか、株主の判断が注目されている。

シティは2022年、コスモHDの実質的な筆頭株主となり、シティと村上氏の長女で投資家の野村絢氏らは現在、コスモHDの株式を約2割保有している。シティ側はコスモHD側の成長戦略を「不十分」とし、株主提案で弁護士の渥美陽子氏を社外取締役に選任するよう要求。取締役会で風力子会社のコスモエコパワー(東京都品川区)の上場について議論し、上場を実現させたい意向だ。

これに対し、コスモHDは今年2023年1月、シティら以外の株主に新株予約権を無償で割り当てる買収防衛策を導入すると発表し、対決姿勢を鮮明に打ち出している。今回の株主総会では大株主のシティおよび利害関係人の議決権を排除したうえで、他の株主に防衛策発動の可否を問う異例の採決手法が取られ、シティおよび利害関係人ら以外の株主の過半数の賛成が得られれば、シティ側がコスモ株の買い増しをさらに進めた場合、取締役会の決議だけで防衛策の発動が可能となる。

シティ側および利害関係人の議決権を排除して、他の株主だけで採決を行う手法は、株式公開買い付け(TOB)の際に公正さを確保する手段のひとつとされる「マジョリティ・オブ・マイノリティ(MOM)」と呼ばれる“奇策”。買収防衛策発動の是非を問う株主総会での可決要件は、シティなど利害関係株主を除く「一般株主」のみによる過半数とされた格好だ。

「株主平等」の原則と買収者の“強圧性”

MOMによる採決手法は2021年、新聞輪転機メーカー・東京機械製作所に投資会社のアジア開発キャピタルが敵対的買収を仕掛けた際、東京機械側がいわゆる「有事の買収防衛策」として打ち出したことで注目を集めた。その後、東京機械の臨時株主総会で防衛策の発動が可決。総会開催前からアジア開発側は差し止めを求めて仮処分を申し立てていたが、東京地裁は却下、東京高裁も地裁の決定を支持し、最高裁も認めたという経緯がある。

「MOMは要するに、一部の株主を排除した上で決議をとるということ。通常、株主というのは1株につき平等な権利が与えられているわけですが、その権利を会社側が剥奪するようなことになるわけです。当然、『株主平等』の原則に反するのではないかという疑問が出てきてもおかしくはない方法です」

こう語るのは、市場関係者だ。確かに、株主平等の原理原則からすれば、理屈が通らない印象を受ける。ただ、「有事の買収防衛策」という概念を導入すると、事情は若干異なる。MOMが“奇策”とされるのも、「有事」という緊急事態が前提として想定されているからだ。

買収防衛策をめぐっては、もともと平時型の買収防衛策が一般的だった。つまり、特にまだ具体的なアクティビストファンドなどが出てきていない段階で、会社側が買収防衛策を導入するのが主流だった。しかし、何も起きていないのに株を買う行為を制限するというのは、投資家からの受けが非常に悪い。海外の議決権行使助言会社も反対してきた経緯もあり、買収防衛策については、近年では有事型の防衛策が一般的となっている。

有事型は、特定の買収者を想定して買収防衛策を入れていくケース。その場合、特定の買収者が会社の支配者となるに相応しいかどうかを一般株主がどのように判断すればいいのかという新たな問題が生じてくる。そこで考え出されたのが、MOMだった。M&A(企業の合併・買収)に詳しい法曹関係者は、こう解説する。

「日本の企業買収事例の問題点として最近よく指摘されるのが、市場内での大量の買付けが無制限に許されていることです。現状では、市場内で株式を買い増し、実質的に支配権を取得していくことが特に制限なく出来てしまう。実際、国内初のMOM事例とされる2021年の東京機械のケースでは、投資会社のアジア開発が同社株の40%近くを市場内で取得。しかも、取得が表面化してから数カ月の間で一気に持ち株比率が3分の1を超えました。企業買収においては、買収者が支配権を取得した場合に企業価値が毀損されることを怖れ、一般株主が不本意ながら株式を売却しなければならなくなるという強圧性の問題が指摘されている。市場内買付けが急速に進められることにより買収者が支配権を取得しようとする場合、一般株主が、このような買収が企業価値を向上させるものであるか十分に吟味できる猶予がないまま売却を余儀なくされる可能性があることから、強圧性が強い類型であるとされています。その場合には、株主平等原則、1株1議決権のところを買収者の議決権は抜いて他の株主たちでこの買収者が本当に買収者として相応しいのかどうか決めることも許されるのではないか。そういう考え方が『少数株主の中の過半数(マジョリティ・オブ・マイノリティ)』として出てきたわけです」

「持ち合い株主」は本来の“一般株主”と言えるのか

特定の買収者を想定した有事型の買収防衛策として限定されるのであれば、一般株主を守るために株主平等原則が一時的に制限されることもやむを得ないというわけだ。ただ、全く問題がないわけではない。日本の買収事例の特徴として、制限なき市場内取得が挙げられる。とすれば、日本の上場企業の株式保有形態の特徴として「株式持ち合い」を挙げないわけにはいかないからだ。株式持ち合いとは、周知のとおり、メインバンク、旧財閥グループなどによって繋がる友好的な企業、取引先企業などがそれぞれの株式を相互に保有し合っている状態で、日本企業に特有の慣行だ。前出の法曹関係者が続ける。

「MOMの考え方が全面的に否定されるかは置くとして、日本の上場企業の問題点として、株式の持ち合いとの関係性はどうなるのか。MOMでは、買収者の議決権に加えて、明確に発行体企業側と言える取締役や社員持ち株会などが持っている議決権は除かれますが、持ち合い株式の議決権は排除されない。会社側からすれば、実質的に会社提案に賛成することが予めわかっている“与党”の株主が相当程度いるわけです。結局、MOMで決議しないと、過半数をとれないから、そうしているわけで、強圧性の排除というのは名目的な理由であり、究極的には“経営陣の自己保身”と言わざるを得ない面もある」

「政策保有株式」とも称される株式持ち合いは戦後日本型経営の残滓と言えるが、MOMにおいては持ち合いの分だけ、本来の一般株主の意向が会社経営に反映される度合いが狭まる懸念も生じてくる。そもそも、政策保有株については、資本が株式持ち合いのための資金に回されれば、本来は事業投資に積極的に回されるはずの資本を効率的に利益として回収できず、資本効率が低下、結果的に株主全体の利益も毀損しかねない点が指摘されてきた。このため、市場関係者の間では「MOMで本当に一般株主の意思を確認したいのであれば、持ち合い株式の議決権も除くべきではないのか」との声も出ているのだ。

コスモHDと東京機械は同じケースなのか ここで…
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