「公益通報者保護法」改正案――“消費者庁出身”日野・淑徳大学教授が語る重要ポイント

3.「犯人捜しの禁止」が法文に追加される

3つ目が「犯人捜し」の禁止です。現行法では第十一条の「事業者がとるべき措置」として、

第十一条 事業者は、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務(次条において「公益通報対応業務」という。)に従事する者(次条において「公益通報対応業務従事者」という。)を定めなければならない。

2 事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない。

3 常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者については、第一項中「定めなければ」とあるのは「定めるように努めなければ」と、前項中「とらなければ」とあるのは「とるように努めなければ」とする。

と記載されています。また、指針では、

2 事業者は、公益通報者を保護する体制の整備として、次の措置をとらなければならない。
(2) 範囲外共有等の防止に関する措置

イ 事業者の労働者及び役員等が範囲外共有を行うことを防ぐための措置をとり、範囲外共有が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる。

ロ 事業者の労働者及び役員等が、公益通報者を特定した上でなければ必要性の高い調査が実施できないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる。

ハ 範囲外共有や通報者の探索が行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる

*下線部は日野教授によるもの

さらに指針の解説には、

公益通報者を特定させる事項の秘匿性を確保し、内部公益通報を安心して行うためには、公益通報対応業務のいずれの段階においても公益通報者を特定させる事項が漏れることを防ぐ必要がある。

また、法第 11 条第2項において事業者に内部公益通報対応体制の整備等を求め、同条第1項において事業者に従事者を定める義務を課した趣旨は、公益通報者を特定させる事項について、法第 12 条の規定により守秘義務を負う従事者による慎重な管理を行わせるためであり、同趣旨を踏まえれば、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して、公益通報者を特定させる事項を伝達される者を従事者として定めることが求められる。

このように、現行法ではいわゆる「犯人捜し」が法令違反になるのか、分かりづらいといえます。

先に見た通り、法律上、「不利益な取扱い」と評価されれば、民事上の法的な効果が及びますし、他方、企業が負っている内部公益通報体制整備義務(なお、従業員数300人以下の事業者は努力義務になっています)として、2条の公益通報に該当すれば、犯人探しを防止する体制の整備も義務づけられてはいます。

しかし、犯人探しを防止する体制の整備については、実際に法律上には明文化されていません。

つまり、法律は「内部通報の体制整備をすること」としか概括的な記載にとどまっており、詳しくは指針、もしくは指針の解説を見てください――という構造になっています。そもそも法令違反になるのかどうか、曖昧な状況ですと、公益通報者側はもちろん不安ですし、企業側も認識が甘くなりがちになると思います。

ですから、改正案では「事業者が、正当な理由がなく、公益通報者を特定することを目的とする行為をすることを禁止する」ことを法文に記載し、「犯人捜し」は明らかに法律違反だということを明文化する運びになりました。

この点は、兵庫県知事のパワハラ疑惑における第三者委員会と百条委員会の調査結果をはじめとして、これまでの企業不祥事が公益通報を通じて発覚した事案等も参考にしながら、企業として、公益通報者を守ることは企業にとって大変有益である、という点を念頭に置き、実務運用を進める必要があります。