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三菱UFJアセットマネジメントが「選任反対」した取締役・監査役リスト#1《1000~3000番台企業》

日本製鉄系「三晃金属工業」取締役は日鉄関係者ばかり

例えば、東証スタンダード上場の金属屋根大手、三晃金属工業(証券コード1972)。取締役8人、監査役2人、補欠の監査役1人の計11議案について、MUアセットから反対されている。同社は1949年の設立後から日本製鉄(当時の八幡製鉄)の出資を受けるなど、日鉄の系列企業で、2024年4月に昇格した青木栄一社長、前社長の佐藤宏明相談役も日鉄出身者だ。

実際、2024年6月定時総会で会社側が提案した人事11議案のうち、ほとんどが日鉄出身者で、一部が自社の生え抜きと、そのほかは日鉄のメインバンクのみずほ銀行出身者で占めており、独立性が低いと判断されたと見られる。

この結果、新任の青木社長の取締役賛成率は2023年総会の97.57%から、今回は18.83ポイント減の78.74%へと急落した。青木氏は、前回は代表権のない副社長だったが、独立性の低さが厳しい評価につながった格好だ。他の取締役も新任者を除き、大半が賛成率を落としている。

キッコーマン社外取締役を務める福井俊彦・元日銀総裁にも反対票

このほか、東証プライム上場の、言わずと知れた醤油界のガリバー、キッコーマンでは、独立性を理由に福井俊彦取締役の就任に反対があった。前年より0.5ポイント上昇したとはいえ、賛成率はわずかに64.68%。

福井氏は元日本銀行総裁で、当然ながら、業種としての系列関係にはない。ただ、副総裁退任後の02年にキッコーマンの社外取締役に就任。日銀総裁を務めた03~08年までは外れていたものの、退任翌年の09年には早速、社外取締役に返り咲いている。長期にわたる在任が経営者との近さを窺わせ、独立性を問われたものとみられる。 ちなみに、福井氏は齢八十九で、いまもキッコーマンで取締役名誉会長、取締役会議長を務める茂木友三郎氏と同じ1935(昭和10)年生まれである。

「御手洗ショック」の原因となった取締役会の“多様性”問題

別の反対理由である「多様性」は、取締役に女性がいない場合、代表権を持つ取締役候補に責任があるとして就任に反対するもの。   

前述の御手洗ショックはその典型的な例だ。米議決権行使助言会社のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が2023年2月、「株主総会後の取締役会に女性取締役が一人もいない場合は、経営トップである取締役に対して(選任の)反対を推奨する基準」を導入。世界最大級の政府系ファンド、ノルウェー政府年金基金をはじめ、21年時点で世界の機関投資家で運用資産残高の上位10社のうち7社が日本企業に対し多様性を求める議決権行使基準を導入済みだった。

なお、MUアセットはキヤノンの提案に反対していないが、三井住友DSアセットマネジメントと野村アセットマネジメントは反対した経緯がある。

MUアセットが今回、多様性を理由に取締役選任案に反対した企業のうち、前年からの最も下落率が大きかったのは、東証スタンダード上場の投資事業会社、ウエルス・マネジメントの千野和俊社長だった。

同社は今回、5人いる取締役のうち4人の選任案を提案。この時点で取締役全員が男性で、女性はゼロだった。23年の株主総会で取締役賛成率93.07%だった千野社長は今回、31.06ポイントも下落させ、62.61%まで落ち込んだ。過半数は超えたので“取締役退任”という最悪の事態は避けられたが、議決権を行使した株主の3分の1以上が支持しなかったことになる。

株主総会309条2項が定める特別決議は、議決権の過半数を有する株主が株主総会に出席し、出席した株主の3分の2以上の賛成を必要とすると定める。定款の変更や営業の譲渡、減資、会社の解散・合併契約の承認など、企業の根幹に関わる重要事項を決める際に必要だ。

ちなみに、ウエルス・マネジメントの場合、千野社長のほか、6人の取締役は3分の2未満の賛成率しか得られていない。MUアセットの反対理由には前年に引き続き独立社外取締役数もあったが、多様性を今年追加したことで賛成率は急落しており、株主から多様性確保の圧力に晒された格好だ。

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