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【メキシコ弁護士特別寄稿】メキシコ「マネロン防止法改正案」と暗号資産規制の影響《後編》

FATF勧告とメキシコの制度改革

FATFの勧告は、マネーロンダリング、テロ資金供与および拡散資金供与への対策に関する国際的な基準を定めています。全40項目からなる勧告および付属する解釈ノートは、各国・地域が効果的なAML/CFT(マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策)体制を構築・整備するための堅固な枠組みを提供しています。この「40の勧告」により、各国は透明性の向上、国際協力の促進、金融市場の健全性の確保を図りつつ、金融犯罪リスクの特定・評価・低減に取り組むことができます。

FATFは、その活動の一環として、各国における40の勧告の履行状況について相互審査および評価を実施しています。相互審査では、各国の法令や規制が国際基準に適合しているかのみならず、それらが実際にどの程度効果的に機能しているかについても評価が行われます。メキシコのような国にとって、相互審査は、AML/CFTの国際基準との整合性を図るうえで重要な指針となります。

上記を踏まえ、AML法改正案は、FATFによる2023年相互審査報告書で指摘された改善の機会に対応し、特定のFATF勧告に関連する遵守ギャップの解消を目指しています。本改正案は、メキシコを国際基準に準拠させ、AML/CFTに係るリスクを低減することを目的としています。

改善点の中で特に重要とされるのは、リスク・ベース・アプローチの導入、顧客管理(CDD)および強化された顧客管理(EDD)の実施義務、ならびに実質的支配者の識別および検証です。そのほかにも、非営利団体に対する監督の強化、内部統制およびコンプライアンス体制の構築、新技術および暗号資産サービス提供者に関する規制の整備が含まれます。

改正案では、メキシコ当局の監督権限の強化、所管官庁間の連携促進、ならびに特定事業者に関する透明性の向上が図られています。加えて、これらの特定事業の適切なモニタリングと登録の確保を目的とした措置や、外部による独立監査の義務化、情報保存期間の5年から10年への延長といった統制措置も盛り込まれています。

これらの要素を取り入れることで、メキシコはFATF基準への適合性を確保し、AML/CFT体制における測定可能な有効性を実証しようとしています。これらの取組みは、FATFの強化されたフォローアップ手続からの脱却を目指すメキシコの戦略的意図を示しており、法制度改革とその効果的な実施の双方へのコミットメントを表明するものです。FATFが重視する「測定可能な有効性」の観点のもと、制度監査から監督機関による標的型措置に至るまで、AML対応の構造そのものが大きく変化しています。