従業員の解雇・雇用契約終了は、各国で手続きやリスクが大きく異なるため、グローバルに事業を展開する企業にとって慎重な対応が求められるテーマです。前回のフランス弁護士からの寄稿に続き、今回は台湾弁護士からの「台湾における『不適任』とされる従業員の雇用契約終了」に関する実務レポートをお届けします。
台湾の労働基準法を基にした企業がとるべき対応を、前・後編の2回にわたりお送りします。この前編は、台湾における解雇の基本的な枠組みと、実務上比較的多く用いられる「合意退職」についてです。
台湾における従業員解雇のリスクと背景
台湾において、従業員が重大な法令違反や就業規則違反を犯した場合に、会社がその従業員との雇用関係を終了させたいと考える際には、一定の合法的な手続きを踏むことで、比較的スムーズに雇用契約を終了させることが可能です。
しかし、従業員が単にパフォーマンスが芳しくない、勤務態度が消極的である、あるいは過ちを犯したとしても軽微なものである場合には、会社が人事管理の観点からこのような従業員を解雇しようとすると、台湾の法令上、相当な法的リスクを伴うことになります。このことは、台湾に子会社・支店・駐在員事務所を有する日系企業においても同様であり、業績不振の従業員をどのように円満に退職させるかは、よく頭の痛い問題となっています。
ベテラン従業員の処遇と企業の対応傾向
特に、ベテラン従業員は会社による強制定年である65歳に近づくにつれ、会社から再度重用されたり昇進したりする機会が減少するため、仕事への意欲が失われ、仕事に消極的な態度を示すことがあります。
会社側も人材の流動性確保や優秀な若手従業員の育成という立場から、限られた経営資源の中で、ベテラン従業員に早期退職を促す方向で検討する傾向にあります。この目的を達成するため、社内においてより整備された早期退職制度を設け、自発的な早期退職を促すインセンティブを提供している企業もあります。しかし、十分に魅力的な早期退職制度がない場合でも、企業は個別のケースにおいて、優遇した金銭補償案を提示し、合意退職という形でベテラン従業員の早期離職を実現することが可能です。
もっとも、長年にわたり十分な成果を上げられないので、企業側が早期退職してもらおうと、非常に良い金銭補償を提示しても、自発的な退職を望まない従業員も少なくありません。このような場合、企業がその従業員が65歳の強制定年を迎えるまで待ちたくないと考えるならば、如何にうまく法令に則って当該従業員を解雇するかという問題に直面することになります。