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【フィリピン弁護士特別寄稿】フィリピン最高裁判所「外国通貨預金口座は相続税の課税対象外」と判示

フェリックス・シー(Felix Sy):弁護士(フィリピン在住)
ジョナス・ジョシュ・C・カボチャン(Jonas Josh C. Cabochan):弁護士(フィリピン在住)

フィリピンの現地弁護士からのレポート第1回に引き続き、第2回では、相続税に関する注目すべき最高裁判決をご紹介します。

2025年1月、フィリピン最高裁判所は、外国通貨預金口座が相続税の課税対象外であることを認める判断を示しました。本件は、相続人が誤って支払った相続税の還付を求めた事案であり、争点となったのは、外国通貨預金を免税とする特別法の効力が現在も有効であるかどうかでした。最高裁は、特別法である外国通貨預金法(共和国法第6426号)に基づく免税規定は、一般法である内国歳入法典によって明示的に廃止されたものではないと判断しています。 

外国通貨建ての資産を保有する個人や、フィリピンにおける相続関連実務に関わる企業・専門職の皆様にとって、今後の対応方針を見直すうえでご参考いただければ幸いです。

2025年1月28日、フィリピン最高裁判所は、「フィリピン内国歳入庁(長官)対チャールズ・マーヴィン・ロミグ(Charles Marvin Romig)の相続財産(唯一の相続人マリセル・ナルシソ・ロミグ代理)事件(G.R. No. 262092、2024年10月9日)」において、外国通貨預金口座は、フィリピン共和国法第6426号(以下「共和国法第6426号」)に基づき、相続税の課税対象外であると判示しました。

1. 事案の概要

本件では、チャールズ・マーヴィン・ロミグ(以下「ロミグ氏」)の相続財産について、誤って支払われた数百万ペソにのぼる相続税の還付が請求されました。ロミグ氏はアメリカ国籍を有し、フィリピンのオリエンタル・ミンドロ州プエルト・ガレラに居住していました。

2011年にロミグ氏が遺言を残さずに死亡した後、唯一の相続人であるマリセル・ナルシソ・ロミグ(以下「ロミグ夫人」)が、単独相続宣誓供述書を通じて、その資産を自身に移転しました。これらの資産には、香港上海銀行(HSBC)マカティ支店のドル建て預金口座(以下「外国通貨預金口座(FCDU)」)が含まれていました。

当初、このFCDUは相続税の算定から除外されていたものの、その後、相続側は456万ペソを支払い、不足分を補填しました。後に、FCDUは共和国法第6426号に基づき相続税の免除対象であるとして、誤納税分の還付を求めました。

2. 裁判所の判断およびその根拠

税務裁判所は、相続財産による還付請求を認容し、共和国法第6426号に定められた免税規定は、1997年内国歳入法典(NIRC)によって廃止されたとの内国歳入庁の主張に理由がないと判断しました。

最高裁判所も税務裁判所の判断を支持し、NIRCは一般税法にすぎず、共和国法第6426号という特別法に基づく明確な免税規定を明示的に廃止するものではないことを強調しました。すなわち、一般法によって特別法の規定を無効または廃止するためには、明確かつ明示的な廃止条項が必要であると判示しました。

特に、共和国法第6426号は、外国からの投資および預金を誘致する目的で制定され、外国通貨預金をあらゆる課税から免除しています。他方、NIRCは、相続税を含む税の賦課を包括的に規定する法律ではあるものの、一般的な廃止条項しか含まれていません。したがって、FCDUに関する免税規定を明示的に廃止したとはいえません。

以上のことから、FCDUに関して共和国法第6426号に基づく免税規定は、現在においても有効であることが、本判示により確認されました。

本レポートは、筆者が執筆し、所属事務所が刊行したニュースレターに掲載された内容をもとにしています。