【《週刊》世界のガバナンス・ニュース#19】米ボーイング、英BP、仏ボロレ・グループ、バロワーズ、ヘルベティア・ホールディング

米ボーイングの自殺した内部告発者家族が損害賠償請求訴訟

米航空機大手ボーイングの生産工程の問題点を内部告発した元従業員が昨年、自殺して米国内で注目を集めたが、その家族がこのほど、ハラスメントなどにより自殺に追い込まれたとして、同社を相手取り損害賠償請求訴訟を起こした。

自殺したのは、2017年まで32年にわたって品質管理マネジャーを務めていたジョン・バーネット氏(当時62)。バーネット氏は退職後、安全基準を満たさない部品の使用や、酸素マスクシステムの欠陥疑いを指摘したが、会社が対応しなかったのを受け、退職後、会社を提訴していた。

しかし24年3月、サウスカロライナ州内のホテルの駐車場に止められた車の中で、遺体で見つかった。銃で自殺したとみられている。

ボーイングをめぐっては、737MAX機が18、19年と立て続けに墜落事故を起こした。24年1月にも、アラスカ航空が運航する737MAX9型機の窓が吹き飛ぶ事故が発生するなど、安全性への信頼が揺らいでいる。

家族は同州の連邦地裁に提出した訴状で、ボーイングは「彼(バーネット氏)が音を上げるか信用を失うまで、士気をくじき、信用を傷つけ、自尊心を失わせることを狙った一連のハラスメント、虐待、辱め」を強いたと主張。請求額は不明だが、精神的苦痛や遡及賃金、勤務を続けていたとして想定される将来賃金などに対する補償を求めるとしている。

「世界最恐」アクティビストの米エリオット、英BPに一段の経営改革働き掛けか

英石油大手BPの株式の5%近くを保有しているとみられる、「世界最恐」のアクティビストとされる米ヘッジファンド、エリオット・インベストメント・マネジメントが、同社に一段の経営改革を求めているもようだ。

BPは業績不振が続いており、株価は英シェル、米エクソンといった同業他社に比べ出遅れている。石油・ガス生産を縮小する一方で再生エネルギー分野への注力を目指す、2020年に打ち出した目標にその原因があると、一部の市場関係者は指摘している。

BPは今年2月、そうした野心的な目標の一部を撤回し、石油・ガス生産への投資を再び拡大する方針を打ち出した。

エリオットはしかし、経営陣の刷新、年間支出の抑制、ガソリンスタンドなど資産の売却、再生エネルギー発電からの完全撤退といった、さらなる改革を求めているもようだ。

仏物流大手ボロレ、アフリカ事業めぐる不正疑いで利益返却求められる

仏物流大手ボロレ・グループと同社の前最高経営責任者(CEO)が、反収賄を掲げる複数の団体から、アフリカの港湾利権を現地の政治家との癒着を通じて獲得したとして、利益の返却を求めて告発された。検察当局が受理すれば、刑事事件として訴追される可能性がある。

ボロレはアフリカ市場に強みを持ち、アフリカの大半の国で事業を展開。前CEOのバンサン・ボロレ氏はメディアも傘下に収める大富豪で、「アフリカの帝王」の異名を取る。アフリカの港湾建設事業をめぐる大規模な贈収賄事件に関与したとして、2018年に仏警察に一時身柄を拘束されたこともある。

今回の告発もやはりアフリカでの港湾事業絡みで、トーゴ、ガーナ、ギニア、カメルーン、コートジボワール各国の港湾プロジェクトをめぐり、「腐敗や情実、口利き」などを通じて権益を手にした疑いがあるとされている。

告発状は、ボロレ傘下のボロレ・アフリカ・ロジスティクスを2022年に仏海運大手CMA・CGMに57億ユーロ(現在のレートで約9300億円)で売却した際、アフリカにおける各種の利権が、高水準での売却価格の設定に反映された可能性があるなどとし、不当利益を現地に返却するよう求めている。

告発したのはレスティテュシオン・アフリク(アフリカに返却を、RAF)、トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)など反汚職を掲げる複数の団体。仏金融検察局(PNF)が告発を受理すれば、捜査に着手する運びとなる。

スイスの保険大手2社が合併検討

スイスの保険大手バロワーズと保険持ち株会社ヘルベティア・ホールディングが合併を検討していると、米ブルームバーグ通信が報じている。合併が実現すれば、国内最大手の保険会社が誕生することになる。

ロンドン証券取引所グループ(LSEG)のデータによると、バロワーズの時価総額は81億3000万スイスフラン(約1兆3900億円)、ヘルベティアは93億3000万スイスフラン(約1兆5900億円)。

バロワーズ株の9%超を保有する、アクティビストとして知られるスウェーデンの投資会社セビアンは、過去10年間、バロワーズ株のパフォーマンスが同業他社に後れを取っていることから、事業内容の見直しやリターンの改善を求めていた。

(毎週火曜日連載、次回#20は4月1日公開予定)