【《週刊》世界のガバナンス・ニュース#14】豪エナジー・トランジション・ミネラルズ、P2Xソリューションズ、丸紅、マイクロソフト
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豪資源開発会社、トランプ発言受けグリーンランドでの規制緩和に期待
オーストラリア資源開発会社エナジー・トランジション・ミネラルズ(ETM、旧グリーンランド・ミネラルズ)は、グリーンランドの次期政権が、ウラン採掘を禁じる法律を撤廃することに期待を寄せている。ドナルド・トランプ米大統領が、グリーンランドの取得に意欲を見せていることも、開発推進の追い風になると受け止めている。
同社は、グリーンランド南部クベーンフェルド鉱山での開発事業ライセンスを保有。同鉱山は世界2位規模のレアアース(希土類)酸化物、同6位のウランの埋蔵量を擁するとされる。
ただ、先住民系政党「イヌイット友愛党」が2021年に政権を握って以降、開発は停滞していた。同党は、同鉱山における放射性物質のウランの埋蔵や、人口が多い場所に近いことを理由に、プロジェクトを停止させると公約。同党主導の政権は、ウラン濃度が100ppm超の鉱山での採掘を禁止する法律を導入した。
しかし、ロイター通信によると、3月11日に行われる自治議会の総選挙後、新たに誕生する政権は採掘解禁に舵を切るのではないかと、同社は予想している。
ETMのダニエル・ママドゥCEO(最高経営責任者)は、トランプ大統領がグリーンランドの取得に意欲を示していることについて、「鉱物に絡むすべての事柄の重要度が増すのは間違いない」と語った。
トランプ大統領による領有構想についての世論調査結果では、グリーンランド住民の85%が受け入れを拒絶している。トランプ氏の野望を阻止し、グリーンランドが経済的に自立するためにも、鉱山開発は推進せざるを得ないだろうと、ママドゥCEOは睨んでいる。
【エナジー・トランジション・ミネラルズ】Kvanefjeld Project
https://etransmin.com/kvanefjeld-project/
フィンランドのエネルギー企業、初のグリーン水素プラントで商用生産開始
フィンランドのエネルギー企業、P2Xソリューションズはこのほど、南西部ハルヤバルタで、同国初のグリーン水素の商用生産を開始した。電解槽の容量は20メガワット。
同社のヘルッコ・プリットCEOはプレスリリースで、「ハルヤバルタ・プラントでの商用生産開始により、フィンランドのグリーン水素経済は計画から現実へと飛躍しようとしている」と語った。
同社は今後、中部のヨエンスーに容量40メガワット、オウルに最大100メガワットのグリーン水素プラントを追加建設する方針。
グリーン水素は、風力など再生可能エネルギーを使って、製造工程でCO2(二酸化炭素)を排出せずにつくられた水素を指す。コスト高や厳しい規制を背景に、英石油大手BPなど、生産計画を中止したり棚上げしたりする企業が相次いでいる。
【P2Xソリューションズ】P2X Solutions launches commercial operation of green hydrogen at its Harjavalta plant as the first one in Finland
https://p2x.fi/en/p2x-solutions-launches-commercial-operation-of-green-hydrogen-at-its-harjavalta-plant-as-the-first-one-in-finland/
丸紅が参画のインドネシア石炭火力発電所、「早期閉鎖」の行方不透明に
インドネシアのプラボウォ・スビアント大統領の実弟で、気候・エネルギー部門の大統領特使を務めるハシム・ジョヨハディクスモ氏はこのほど、前政権が打ち出した石炭火力発電所の早期閉鎖方針を撤回する意向を表明した。丸紅が運営に参画している、西ジャワ州チレボン石炭火力発電所(チレボン1、発電設備容量66万キロワット)も、予定を早めて閉鎖されることになっていたが、ここにきて行方は不透明になってきた。
インドネシアではジョコ・ウィドド前政権が、気候変動対策の一環で石炭火力発電の早期全廃方針を打ち出した。資金面では、日本と米国が主導する、新興国・開発途上国の脱石炭を支援する枠組み「公正なエネルギー移行パートナーシップ」(JETP)を活用することになっている。
昨年10月に就任したプラボウォ大統領も、就任直後には、2040年までに石炭火力発電を全廃する目標を示していた。
しかし、ハシム氏は1月末にジャカルタで開催されたESG(環境・社会・ガバナンス)関連の会合で、石炭火力発電の早期閉鎖は「経済的な自殺に等しい」と批判。プラボウォ政権は、早期閉鎖は行わないと語った。
ハシム氏はその理由として、JETPの下で約束されていた総額200億ドルの資金援助のうちの50億ドルの無償援助分について、いまだに実行されていないと主張。また、JETP自体、トランプ米大統領によって撤回される可能性があるとの見方を示した。
「チレボン1」をめぐっては、運営に当たっている独立系発電事業者(IPP)のチレボン・エレクトリック・パワー(CEP)、アジア開発銀行(ADB)、国営電力公社PLN、インドネシア投資庁(INA)が、当初予定を早めて35年に閉鎖することですでに合意済みだ。
CEPには、丸紅が32.5%、韓国中部発電が27.5%、インドネシアのエネルギー・インフラ大手インディカ・エナジーと韓国サムタンが20%ずつ、それぞれ子会社経由で出資している。
ハシム氏の発言通り、石炭火力発電の早期閉鎖に向けた政府方針が正式に撤回されることになれば、関係各機関は合意内容の全面的な見直しを余儀なくされる公算が大きい。
米マイクロソフトの最高サステナ責任者、目標達成へAI活用を力説
米IT大手マイクロソフトのメラニー・ナカガワCSO(最高サステナビリティー責任者)は、同社の持続可能性目標達成に向けた進捗状況を説明する文書を公表した。CO2を排出量以上に削減する「カーボンネガティブ」を2030年までに達成することを目標に掲げている同社として、AI(人工知能)を活用するなどして、さらなる努力をしていく考えを強調している。
同社は20年、カーボンネガティブのほか、事業で使用する量を上回る水を水源に還元する「ウォーターポジティブ」、「廃棄物ゼロ」といった目標を発表。
ナカガワ氏は、温暖化ガス排出削減について、同社の再生エネルギー電力購入契約(PPA)が34ギガワットと、世界最多水準に達していると説明。契約先は24カ国に及んでいるとしている。
また、25年は目標年まであと5年という節目の年でもあると指摘。経営陣は20年時点では目標について「ロケットを月に向け発射するようなもの」と語っていたが、AIなどの新技術を気候変動対策にも活用することで、目標達成努力を加速させることができると力説している。
【マイクロソフト】Progress on the Road to 2030
https://blogs.microsoft.com/on-the-issues/2025/02/13/progress-on-the-road-to-2030/
(毎週火曜日連載、次回#15は2月25日公開予定)
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