株式価値算定書の開示、MoM条件……米国とは“彼我の差”
まず、東証による市場関係者への事前ヒアリング結果を通じて多くの意見が寄せられ、今回の改正で大きな論点となっているのが、非公開化時の第三者算定機関による株式価値算定書の前提条件等の開示の拡充である。
現行の規則では、概要として重要な算定の前提条件等に関する開示は求められる一方で、算定書そのものの開示は義務付けられていない(算定書の取得自体は義務)。設備投資計画や、余剰現金や不動産など非事業用資産の取り扱いなどを恣意的に操作することで算定結果にある程度の影響を及ぼすことが可能であり、この点に関する透明性が確保されていなければ、取引の公正性が損なわれる恐れがあるという一定の問題意識が実務者の間で共有されていると言っていいだろう。
また、MoM(マジョリティ・オブ・マイノリティ)条件など、少数株主の意思確認手続きに関する点も、大きな論点となった。
MoM条件とは、「一般株主、すなわち買収者と重要な利害関係を共通にしない株主が保有する株式の過半数の支持を得ることを当該 M&Aの成立の前提条件とし、当該前提条件をあらかじめ公表すること」(公正M&A指針)であり、公正性担保措置のひとつと位置付けられている。たとえば、株式の60%を保有する親会社による完全子会社化を目的としたTOBの場合、少数株主の保有分である40%の株式の過半数にあたる20%をTOBの下限に設定する、といった具合だ。
だが、東証の公表資料によれば、支配株主による完全子会社化のケースにおいて、MoM条件が設定されたケースはゼロ。アクティビストなどの参入により買収が不成立となるリスクが高まることなどが大きな要因だが、その他の公正性担保措置は、程度の差こそあれM&A実務への浸透が見られるのに対し、MoM条件の設定については、プラクティス(通例)として確立しているとは程遠い状況と言える。
この点、米国の実務は異なる。米国においては、対象会社の取締役のみならず、支配株主も対象会社の少数株主に対する信認義務(fiduciary duty)を負う。そして、手続きの公正性を担保する一定の要件を満たせば、裁判において取締役・支配株主が信認義務を果たしたと認められやすくなる判例法理が確立しており、MoM条件が設定されることや、フェアネス・オピニオン、およびその根拠となる株式価値算定書が取得・開示されることは、実務上一般的となっている。