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ベルトルト・ブレヒト「英雄のいない国は不幸だが、英雄を必要とする国はもっと不幸だ」の巻【こんなとこにもガバナンス!#14】

栗下直也:コラムニスト
「こんなとこにもガバナンス!」とは(連載概要ページ)

「英雄のいない国は不幸だが、英雄を必要とする国はもっと不幸だ」
ベルトルト・ブレヒト(ドイツの劇作家)

1898~1956年。1928年に初演された「三文オペラ」は映画にもなり、世界的名声を博した。ナチスの迫害を逃れ、33年にデンマーク、41年にアメリカに亡命。詩人としても有名で、詩集「家庭説教集」「スウェント-ボルク詩集」は広く知られる。

弟子から”殉教者”になることを期待されたガリレオ・ガリレイ

1週間後の9月27日に迫った自民党総裁選の立候補者の“誰か”について言いたいわけではないのだが、政治に閉塞感が漂い、有効な打開策がない時、メディアなどではたびたび、この言葉に出くわす。

もともとはブレヒトが1930年代に執筆した戯曲「ガリレイの生涯」で使われた言葉だ(43年初演)。

16世紀から17世紀にかけて活躍したイタリアの天文学者、ガリレオ・ガリレイがコペルニクスの地動説を証明し、教会に袋叩きにされ、神の権威を否定したとして宗教裁判にかけられる。弟子たちは「弾圧されても死刑になっても、ガリレイ先生は己を貫き殉教者(英雄)になる」と期待したが、ガリレイは拷問に屈して自説を撤回する。弟子は失望し「英雄がいない国は不幸だ」と叫ぶが、ガリレオはこう言う。

「英雄を必要とする時代はもっと不幸だ」

後世の私たちからすると、「弟子はガリレイにいろいろ背負わせ過ぎだろ?」「それはお前の思いに過ぎないだろ?」と突っ込みたくなるが、悲しいかな、誰もが同じようなことを無意識に望んでいないだろうか。

今の時代は先行きが見えず、国も組織も舵取りが簡単ではない。誰かがどうにかしてくれないかと「英雄」を求めてはいないだろうか。「英雄」は必ずしも“人”とは限らない。ドラスティックに見える政策や戦略かもしれない。難局にあると人はいずれにしても、簡単で分かりやすいものに飛びつきがちだ。

「英雄」がいないことは不幸ではない

だが、「英雄」は常に英断を下すとは限らないし、状況を好転させるどころか、悪化させる可能性もある。「英雄」という名の独裁者が統治した国家は言うに及ばず、ワンマン経営者が君臨した企業の行く末を見れば、それは明らかだろう。

つらい時こそ思考を停止して「英雄」にすがりたい気持ちは分かるが、ガリレイが言うように英雄がいないことは必ずしも不幸ではないのだ。

(月・水・金連載、#15に続く)

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