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【ベーカー&マッケンジー 井上朗弁護士が徹底解説】トランプ政権は日本企業のガバナンスにどう襲い掛かるか

報奨金で企業の「不正告発」を奨励!?

──日本企業としては、安全保障絡みの分野は別として、特に反トラスト法絡みの分野では、バイデン政権時代と変わらないコンプライアンス対応をしていけばいいでしょうか。

反トラスト法分野ではその通りです。

それに対し、CFIUSは国家安全保障という、別の判断軸が入ってくるので、この分野は間違いなく厳格化されるでしょう。同盟国の会社だから、というのは実は関係ない。中国企業と同列に見られるのが不本意でも、やはり外国企業ということで同じ土俵で見られてしまい、CFIUSについては厳格化は避けられず、M&Aは少し難しくなると思います。軍需とか鉄鋼、半導体などの重要産業部門については、日本企業による米企業買収に際してのハードルは少し上がります。

──ESG(環境・社会・企業統治)、特に環境分野での二酸化炭素(CO2)排出削減に関してはトランプ政権でかなり後退するといった指摘もありますが、コーポレートガバナンス分野については、どのようなことが予測されますか。

バイデン政権が進めてきたものを恐らくさらに加速させていくと見られます。ガバナンスがしっかり効いていれば当然、透明性が確保できて、企業における不正が起きにくくなることが期待されます。

ただ実は、米国内もコーポレートガバナンスがうまくいっておらず、米企業もものすごく不正を抱えているのです。そこでバイデン政権が何をやり始めたかというと、「企業においてはガバナンスをしっかり効かせよ」ということでした。ただ、それができていない場合もあって、不正が起きることもある。

そこで、その場合は、不正告発を対象とする報奨金制度を利用して「政府に直接通告をしてください」という仕組みを本格化させたのです。

報奨金制度はもともと、証券取引委員会(SEC)が導入していました。その対象は基本的には米国の上場企業だけでしたが、日本や中国など外国企業にも門戸を非常に広くしたうえで、「不正を見つけたら連邦政府に通告してください」と呼び掛けることにしたのです。

ガバナンス体制をきっちり構築して不正が起きないように、あるいは通報があった場合、企業をはじめとする組織の中でしっかり消化できるようにしていってくれということで、報奨金制度を導入したわけです。これがかなり成功し始めて、カモ(通報者)がネギ(不正の証拠)を背負って、大挙押し寄せているようです。

トランプ次期政権も、企業側にガバナンス体制を構築しようというインセンティブを持ってもらうため、直接の報奨金制度をもっと拡充して、ジャスト・イン・ケースの場合には「連邦政府にどんどん通告をしてください」といった宣伝をさらに広めていくと見られます。

“トランプ2.0”の政策運営は「予測不可能」などといった見方も多いですが、十分予測可能です。ヒントもあります。日本企業としては、SNS上でのトランプ氏の“つぶやき”から次期政権幹部の発言まで、政策のヒントを見逃さないよう、政権移行中の今こそ、細心の注意を払うことが肝要です。

(取材・構成=ジャーナリスト 有吉功一)